遺骨は海を越えて――日系ブラジル人の葬られ方から考える「墓を守る」意味
「誰かがお参りに来てくれる」
次にやって来たのは、JR浜松駅から歩いて5分の場所にあるスーパー兼食堂「セルヴィツー」。ブラジル人向けの食料品や料理が提供されて、浜松在住のブラジル人たちの憩いの場になっている。そこで、市内で通訳の仕事をしている日系ブラジル人2世の女性(50代)に話を聞いた。 彼女は1990年代初頭、九州にルーツを持つ両親と一緒に来日した。浜松でいくつもの仕事に就きながら、家族と暮らしている。数年前、両親はブラジルに戻ったという。「父と母は日本出身で国籍も日本だけど、『老後はブラジル』『死ぬときはブラジル』とずっと言っていました。やっぱりブラジルのほうが、のんびりできるんでしょうね」 通訳をしているだけあって、日本語はかなり達者だった。年齢も近いこともあり、どことなく私の母を思い起こさせるような風貌をしていた。もし両親が亡くなったら、誰が墓の世話をするのか聞いた。 「兄弟とか親せきか、誰かがやりますよ。あとブラジルでは、市(行政)が管理していることが多いですね。お盆には、誰かがお花を持っていきます。誰も来てくれていない墓にも、知らない人がお花を供えてあげたり、ロウソクをあげたりしていますよ。たぶん放置されている墓は少ないんじゃないかな」 日本だったら、長男だったり、一番近くに住んでいる家族が「墓を守る」という感覚があるが、そこはどうなのだろうか。 「墓を守るなんて、そんなの聞いたことないですね。無理して墓参りしたり、墓を守ったり……ブラジル人の感覚からしたら、そんなところにこだわらないと思う。だって、家族だけが墓を守らないといけないわけではないでしょう」 彼女には浜松で生まれた子どもがいる。ブラジル国籍で、ブラジル人だという意識はあるが、日本語しかできないため、このままずっと日本に住むことを望んでいるという。 「私が死んだら、ブラジルの墓に入れてもらいたいですね。子どもはブラジルには行かないだろうから、私のお墓には来ることは少ないかもしれませんが……それはそれでいいと思います。誰かがお参りに来てくれるから」