伊豆・あさば、箱根・強羅花壇…憧れの高級旅館はどこが違う? 目指すは「一流の極み」
■食の感性 欧州の一流に学ぶ
「当時の旅館はまだ外国人客も少なく、造りは昔ながらの様式でしたし、今のように仕様にこだわった風呂を前面に打ち出すこともしていませんでした。でも会員になって世界基準に触れたことで、我々の目線が変わり、そこからあれこれと手直しをしていきました。日本旅館の仲居さんのきめ細やかなサービスは世界に誇れるものですが、水回りや料理は欧州の方が上でしたね」 仕事が休みになれば2泊3日でパリに赴き、有名レストランを食べ歩いて食の感性を磨いた。「地元の食材をふんだんに使い、心からおいしい料理を大事にしていることに感銘を受けました」 あさばの料理は徹頭徹尾、素材のおいしさを引き出すことに心を砕いたシンプルな皿が続く。香ばしい薫りのアユの炭火焼き。駿河湾で採れた魚介のお造り。すっぽん冬瓜椀(とうがんわん)。朝食に供されるのは、ふっくらしただし巻き卵に、削りたてのかつお節を乗せて食べるワサビご飯。 「いまの料理界は見た目重視で、アーティスティックになっていますけれど、私は『頭で食べるような料理』はあまり好きではありません。地元の食材をなるべく使う。作りたて、削りたて、炭で焼く、だしをきちんとひく。こうした当たり前のことをやり続けることが滋味深く、おいしい料理をつくる要点ですし、今後も守り続けていくところです」。そしてあさばは、旅館の良さは部屋でのんびりすることだ、という考えから、いくら手間がかかっても、朝も夜も部屋食を貫いている。 2022年、あさばは大がかりな改修に踏み切り、16室あった客室を12室に減らし、一方でサロンを従来の2倍以上に広げた。現代のライフスタイルに合うよう、床の間の造りに手を加えたのもこの時だ。 「本来の日本式の空間は、座卓で座った方がきれいに見えます。でも、いまの時代はテーブルが一般的ですから、床の間を高めにしたのです。合わせて掛け軸の表具を変えて寸法を縮めたり、花生けも小さくしたりしました。お茶に通じるもてなしの精神としては、床に気持ちを込めることが大切です。いらっしゃる方に合わせて掛け軸や花に気を配ることが、日本文化の真骨頂である、ということを外国の方にもお伝えしたい」 日本文化や日本人の繊細なおもてなしの心を高いクオリティーで集約した施設として、旅館を世界に発信したい、という浅羽さん。「日本の文化はただ古いだけではない。きちんとアップデートされているというところを見せていきたいと思います」 顧客は都心部に住む富裕層の比率が高く、タワーマンション住まいも多い。だからこそ、あさばでは「光、風、緑を感じていただきたい」。自然の中で、時間の移ろいとともに変化する景色を見てもらう。それがあさばが提供する、なによりのぜいたくなのだという。