<バスケ天皇杯>A東京が田中大貴のブザービーターで勝ち上がる
1月13日は大変な一日だった。日中ケイン・ロバーツ(アースフレンズ東京Z)がNCAAディビジョンIのストーニー・ブルック大からオファーを受けたとツイートしたかと思えば、夕方には米須玲音(東山高校3年生)の川崎ブレイブサンダーズ加入が発表され、夜には第96回天皇杯3次ラウンドの4試合が行われるという流れだ。どんな締めくくりになるかと思いながら向かったのは、アルバルク東京とサンロッカーズ渋谷が激突するアリーナ立川立飛。期待を裏切らないエキサイティングな幕切れが待っていた。 <動画>バスケ用語で英語を学ぼう 負ければ終わりの一発勝負に臨むこの2チームは、ともに王者の称号を持つチーム。渋谷は昨年天皇杯を獲得チームであり、対する東京は昨年のBリーグ王者だ。勝てば今大会の4強入りが決まる。 序盤から不思議な雰囲気で試合は進んだ。際立ったのは渋谷の激しいディフェンスなのだが、第1Q残り3分過ぎまでほとんどの時間リードを保ったのは東京の方だった。渋谷はボール運びの段からタイトなディフェンスでプレッシャーをかけ、東京のオフェンスを厳しいものにしていた。一方オフェンスではガード陣の安定したプレーメイクとライアン・ケリーの得点で、拮抗した展開から徐々に引き離しにかかる。残り1分8秒に石井講祐のスリーで17-11とリードを6点に広げると、小酒部泰暉に1本返された後にもベンドラメ礼生がすかさず返し、第1Q終了時点で19-13とそのリードを維持した。この時点では渋谷のディフェンスの前にアルバルクは得点こそできているものの、何とかつなぐのが精いっぱいのような印象だった。 第2Q開始早々にも東京はバックコートでプレスに引っかかりターンオーバー。渋谷はペリメーターでのピック&ロールに対し、ドリブラーの進行方向に素早い出足でアグレッシブに立ちはだかるハードヘッジがよく効いた。サイドラインやコフィンコーナー付近でボールが止まるとすかさず体を寄せていく。 ディフェンスでのインテンシティーの高さはオフェンスにも好影響を及ぼし、山内の技ありフローターに続いてチャールズ・ジャクソンがダンクを決めた第2Q残り6分22秒には、28-17と9点差をつけて主導権を握ったかに見えた。得点差だけでなく、ショットに至る過程が両チームで大いに違っていた。渋谷は連携がうまく取れてボールがつながるのに対し、東京は一つ一つの局面が苦労の連続だ。 ただ、東京のプレーヤーたちはそのきわどいプレーを落ち着いて処理し、リバウンドにも食らいついていた。安藤、ジョーンズ、アレックス・カークらが得点を重ね、クォーター終盤には小酒部とザック・バランスキーがスリー2本で追撃。前半終了時点で38-40と2点差に迫る。 後半が始まっても、渋谷の激しいディフェンスが効いて東京は苦労しながら何とかショットに繋げるようなシーンが多かった。ただ、一方で渋谷はよい形でオフェンスを展開しながら、しぶとく得点を積み重ねる東京を突き放すことができなかった。第3Qを終わってスコアは54-50の渋谷リード。勝負はどちらに転んでもおかしくない状態だ。 最終クォーター、流れに大きな影響を及ぼした出来事の一つに石井のファウルアウトが挙げられる。65-63と僅差でせめぎあう残り3分18秒、ゴール下でジョーンズが保持したボールを石井がたたき落としたきわどいプレーにホイッスルが鳴り、このプレー得たフリースローで東京は65-65の同点に追いつく。その約20秒後、今度は石井がファウルを取り返してフリースローを2本決め、再びチームに2点のリードをもたらし、さらにベンドラメがピック&ロールからドライブで加点して残り2分29秒で69-65の4点リードとした。石井のファウルアウトは残り1分12秒。勝負所で流れをつかみかけた渋谷だったが、このファウルアウトが水を差した形になってしまった。 最終的に勝負を決めたのは田中大貴。ケリーのミドルで72-73とリードを奪い返されて迎えた残り6秒からの最後のオフェンスで、自陣ベースラインからのスローインを受けてボールを運んできた田中は、マッチアップするベンドラメの左サイドにアタックして試合終了直前にベースラインからショットを放った。これがみごとなブザービーターとなり73-74の劇的勝利。コートに倒れ込んだベンドラメは天を仰ぐしかなかった。 試合後の会見で渋谷の伊佐 勉HCは自チームのディフェンスについて、「多くはいい時間帯だった」と振り返った。「ボールピックゲームの多いチームなので、全員でボールを止めようと伝えた」と言い、それは功を奏したようだった。ただ、対する東京の田中のコメントから、渋谷のディフェンスの強さをきちんと頭に入れて準備していたことがうかがえた。「ファウルを気にせず、タイムシェアもしてどんどんプレッシャーをかけてくる相手に対して、ミスが出ても、じゃあ次はどうするかというふうに切り替えて…。40分間我慢比べになると思っていましたし、予想していた通りの試合になったと思います」。 我慢して僅差の勝負に持ち込み、最後のポゼッションでエースの手にボールを渡すことができたのが勝因ということか。「最後1対1になった時に、左に行くのを礼生(ベンドラメ)に読まれていたと思いますけど、自分の方がサイズもありブロックされるとは思っていなかったので、何とか間合いを作って打てるといいなというある程度のイメージを持っていました」と逆転弾を振り返る笑顔は自信に満ちていた。 <天皇杯 3次ラウンド> 川崎ブレイブサンダース 〇 72 - 62 千葉ジェッツ アルバルク東京 〇 74 - 73 サンロッカーズ渋谷 宇都宮ブレックス 〇 87 - 72 大阪エヴェッサ 琉球ゴールデンキングス 60 - 85 〇 シーホース三河 ※川崎、A東京、宇都宮、三河の4チームは3月12日(金)~13日(土)にさいたまスーパーアリーナで行われるファイナルラウンドへの進出が決定
柴田 健 / 月刊バスケットボール