板挟みの日銀黒田総裁…長期金利の変動幅「拡大」に踏み切れなかった本当の理由
「変動幅を拡大したわけではない」と言うが…
日本銀行の黒田東彦総裁は3月19日に行われた金融政策決定会合後に記者会見し、金融緩和の継続を表明した。 【関連】菅首相「支持率30%」でイライラ爆発…次の総選挙は本当にヤバいかも その中で具体的な対応策として、想定する長期金利の変動幅をプラス、マイナス0.25%程度である旨明言した。 翌日の読売新聞(朝刊)の一面トップの見出しは「日銀決定会合、長期金利の変動幅明示 上下0.25%―金融機関収益に配慮―ETF購入柔軟に、6兆円枠撤廃」であった。 黒田総裁は同5日の衆院財務金融委員会で「変動幅を大きく拡大させることが必要とも適当とも思っていない」と証言していた。 ここで想起すべきは、日銀は2018年7月の金融政策決定会合で次のような議論を行っていたことである。少々長いが引用する。 「長期金利操作の弾力化は、市場機能の維持・向上に資すると考えられる。現状より金利が幾分上昇しても、経済・物価への影響は限定的とみられる一方、金融仲介機能への累積的な影響の軽減と政策の持続性強化に効果が見込まれる。主要国の足もとの長期金利の動向を参考にすると、わが国の金利操作にあたって±0.25%程度の動きを許容することが適切と考えられる」(同年8月8日に日銀が公表した「金融政策決定会合における主な意見」から抜粋)。 既に同報告書で「±0.25%程度の動きを許容することが適切」と記載されていたのである。従って、今回の決定は何らサプライズではなかったということだ。「変動幅を拡大したわけではない」(黒田総裁の会見発言)のだが、市場は事実上の拡大と受け止めたのである。
金融緩和の副作用
そして日本経済新聞(20日付朝刊)の見出し「金融政策危うい均衡―米金利上昇→ドル高→新興国利上げ、市場は過熱警戒」が端的に指摘したように、《緩和マネーは今後一段と膨張する。……景気の過熱感が強まれば物価や金利は急騰しかねない。そのリスクを抑えつつ、市場と対話しながら機動的に政策の調整を重ねることが中銀に求められている》のだ。 しかし、金融緩和には副作用が伴うことは論をまたない。現下のコロナ禍の中で、将来のマイナス金利深掘りや長期金利の押し下げなどの政策オプションを準備しておくことが求められている。 日銀がその副作用対策として念頭に置いているのが国債(JGB)と上場投資信託(ETF)の購入プログラムである。 「読売」の見出しにあるように、日銀は今回ETF購入について原則6兆円としていた方針を撤廃する一方で年12兆円の上限は維持した。 米ニューズレター「OBSERVATORY VIEW」(3月12日付)が、実は次のように指摘していたのだ。 《市場動向に関係なく、毎年6兆円程度のETFを購入し続ける場合、市場の価格発見メカニズムを歪める可能性がある。実際、日銀は既にテクニカルに最大株主になっている。またETFは出口が非常に難しいこともあり、柔軟な買い入れスタンスへの変更が必要になっている。》