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コロナ危機が転機に? 自動車業界の行方

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マイナビニュース

「100年に1度の変革期」を迎えている自動車業界に、「リーマンショック以上」ともいわれる新型コロナウイルス感染拡大の危機が訪れている。日本の自動車メーカーの業績をつぶさに見ていくと、各社が置かれた状況と対応すべき喫緊の課題が分かってくる。 【写真】ハスラーなどの人気車を擁するスズキにも「インド偏重」という課題が浮上している 変革を迫られる自動車業界 例年なら5月の連休明けに発表される自動車各社の決算発表。今年は大幅にずれ込み、ようやく5月末に出そろうという異例の事態となった。それというのも、コロナ危機の勃発により、自動車市場の世界的な冷え込みとサプライチェーンの寸断が重なったことで、生産台数の減少が業績に与える影響を見極められなくなり、今期(2020年度)の業績予想が困難になったからだ。 必然的に自動車各社の連結業績は、大幅に悪化している。すでに2019年度決算で赤字に転落した日産自動車、三菱自動車工業だけでなく、大半の自動車メーカーで今期は赤字計上の懸念が強まっている。 リーマンショックを上回る「コロナショック」が、世界の自動車産業に深刻なダメージを与えている。折しも自動車産業は、「100年に1度の大転換期」を迎えている真っ最中だ。そこへきてのコロナショックであり、各社はウィズコロナ、アフターコロナへの対応力が問われることになる。 まずは、足元の業績回復を迅速に進める復元力が必要となる。さらには、「CASE」(コネクティッド、自動化、カーシェアリング、電動化など)や「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)に対応するための先行開発投資は待ったなしの情勢だ。アフターコロナの新時代に、世界の自動車産業はどう向き合っていくのか。今は重大局面であり、自動車各社の競合はさらに激化していくことだろう。 今期黒字予想はトヨタら3社のみ 5月28日の日産を最後に自動車9社の決算発表が出そろった。日本の自動車メーカーは12社だが、ダイハツ工業(トヨタ100%子会社)、三菱ふそう(独ダイムラー100%子会社)、UDトラックス(スウェーデン・ボルボ100%子会社)の3社は非上場のため、決算を公開していない。 自動車9社のうち、2019年度業績で増収増益となったのはトヨタとスバルの2社のみだった。トヨタはこの間、収益性の向上とバランスの取れた世界販売を進めてきた成果が出た格好だ。スバルは国内工場の品質問題の整理が一段落したことに加え、2019年度中(2020年3月末まで)は主力とする米国市場でコロナ禍の影響が軽微であったことによる。 リーマンショック直後の2009年3月期に、トヨタは戦後初となる営業赤字に陥った。その後は東日本大震災によるサプライチェーン問題などの危機をバネとして収益性の向上を進めつつ、世界市場でまんべんなく生産・販売の力を高めてきたことが奏功し、2019年度業績では営業利益2兆4,428億円を確保した。しかし、トヨタの豊田章男社長は、「コロナのインパクトは、リーマンショックよりはるかに大きい」として、コロナ危機に直面する今期への危機感を強めている。今期の世界販売は890万台との見通しだが、この見立て通りにいけば8年ぶりに1,000万台の大台を割ることになる。生産販売が昨年並みの水準に戻るのは2020年末から2021年初めごろというのがトヨタの見方だ。 それでも、「トヨタだけでなく、連なるサプライチェーンの雇用と人材を守り抜く」とする豊田社長は、今期の業績見通しで営業利益5,000億円の黒字確保と国内300万台生産の死守を明言した。日本の自動車産業の“盟主”であるトヨタの影響力は大きい。コロナ危機への対応に向け、「どんな環境でも持続できる体制とするため、新しいトヨタに生まれ変わるスタートポイントに立つ」と話した豊田社長は、コロナ危機に直面しても揺るがないトヨタをあえてアピールしたのだ。 今期の連結業績について、本業の儲けを示す営業利益の予想を公表したのはトヨタのほか、商用車メーカーの日野自動車といすゞ自動車だけだった。トヨタ以外の乗用車7社が業績予想を明示しなかった理由は、「コロナ禍の先行きが不透明で業績が見通せない」というホンダの八郷隆弘社長の言葉に集約されている。 物流を担う商用車メーカーの日野といすゞは、「コロナは未曾有の危機だが、固定費の徹底削減、効率化で黒字化を達成する」(日野自動車の下義生社長)、「コロナの影響で事業活動の制約は長期化するだろうが、物流は動いている。費用圧縮の緊急事態体制で黒字を確保する」(いすゞの片山正則社長)とする。日野は100億円、いすゞは500億円の黒字確保を公表した。 お家事情はさまざま、コロナ対応は待ったなし 今期の業績予想を打ち出せなかった各社は、それぞれの“お家の事情”を抱えながら混迷の2020年度に入った。今期の連結業績では、いかに赤字を避けるかということが難題だし、中には赤字覚悟のメーカーも存在するだろう。 2019年度に赤字を計上した日産と三菱自動車は、「構造改革」に取り組む中でコロナ危機が追い打ちをかける。仏ルノーと連合を組む両社には、ゴーン元会長時代の拡大路線によって生じた歪みが重くのしかかる。これからは3社連合の枠組みを変えて、効率追求を進めることで足元の業績回復を狙うが、果たして復権は可能なのか。日産はグローバル拡大戦略を見直し、工場閉鎖などのリストラをはじめとする構造改革を徹底していく方針。三菱自動車はアセアンに特化した経営資源の選択と集中に大きく舵を切る。 ホンダも主力の四輪事業は再構築の途上にあり、低落した収益性の向上を図る中でのコロナ対応となる。同社の2019年度連結営業利益は4,557億円(前期比25.7%減)だが、四輪事業だけで見ると営業利益は1,533億円、営業利益率は1.5%にとどまる。四輪事業の不振を二輪事業でフォローしているのが実態だ。米国に続く柱として中国に力を入れてきたホンダだが、中国市場も先行きは不透明な情勢。過剰となった生産能力の削減と、これまで聖域だった本田技術研究所の吸収による構造改革の成果をあげることが急務だ。 スバル、マツダ、スズキの中堅各社も生き残りへの正念場となる。 スバルは北米での収益力が高く、“米国一本足打法”と呼ばれるほどだが、今期の業績は米国市場がまともにコロナ影響を受けるだけに厳しい。マツダも北米を主体に輸出比率が高く、すでに2020年1~3月期で営業赤字を計上しており、今期の赤字転落を避けられるかどうかといった状況だ。 スズキは圧倒的な販売シェアを誇るインドでの収益力が連結業績に占めるウェイトが大きい。2019年度の連結営業利益が前期比33.7%減の2,452億円となったのも、インド子会社マルチスズキの営業利益が587億円(前期比54%減)と半減したことによる。インド経済の低迷に加え、同国でもコロナの影響が拡大していることから、スズキも今期は厳しい結果となりそうだ。 コロナ危機は長期化を覚悟しなければならない情勢となっているだけに、自動車各社の資金力・資金調達が当面の課題となる。各社の手元資金(2020年3月末現在)はトヨタが5兆6,974億円、ホンダが2兆6,723億円、日産が1兆6,429億円、スバルが8,589億円、スズキが6,043億円、マツダが5,689億円、三菱自動車が3,966億円だ。一方で、負債の規模を見ると、有利子負債が自己資本比で高いのが日産で1.9倍だ。 トヨタをはじめとする自動車各社は、コロナ対応の資金調達で手元資金の確保を進めているものの、サプライチェーンや地域経済(トヨタ=愛知、マツダ=広島、スバル=群馬、スズキ=浜松など)への影響を含め、取引先である部品企業の支援まで対応できるのだろうか。そこにも注目したい。 さらに、CASEなど次世代技術への先行開発投資は待ったなしだ。各社ともに先行開発投資を抑えることはないとしているが、業績連動でどれほどの投資額を確保できるかということになる。研究開発費の彼我の差は、生き残りに大きく影響することになるだろう。 「コロナの影響からの回復は、リーマンショックよりも長くかかりそう。体制強化をしっかりやっていかないと」(スズキの鈴木俊宏社長)という言葉や、「新型コロナウイルスは我々の事業環境だけでなく、人々の価値観にも大きな変化を与えている。今後、起こりうる変化に対応できる事業に変えていかねば」(ホンダの八郷隆弘社長)といった発言に代表されるように、各社トップはウィズコロナ、アフターコロナへの対応に向け、事業転換を進める方針を打ち出している。自動車業界では次世代技術とコロナ危機への対応により、産業構造の変革に拍車がかかりそうな情勢だ。日本の自動車メーカー各社は今、大きな転機を迎えている。 著者情報:佃義夫(ツクダ・ヨシオ) 1970年に日刊自動車新聞社入社、編集局に配属となる。編集局長、取締役、常務、専務、主筆(編集・出版総括)を歴任し、同社代表取締役社長に就任。2014年6月の退任後は佃モビリティ総研代表として執筆や講演活動などを行う。『NEXT MOBILITY』主筆、東京オートサロン実行委員なども務める。主な著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)、「この激動期、トヨタだけがなぜ大増益なのか」(すばる舎)など。

佃義夫

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