【岸田首相退陣表明】責任回避は許されない(8月15日)
岸田文雄首相は14日の記者会見で、自民党総裁選に立候補しない理由について、国民の支持が低迷する党を変えるためと強調した。党の政治改革本部長を務めた会津若松市出身の衆院議員、故伊東正義氏の「表紙だけ替えても駄目だ」との苦言がよみがえる。トップを交代しただけで党の再生が容易に進むとは到底思えない。 自民党派閥の政治資金パーティー裏金問題に関して、岸田首相は「所属議員が起こした重大な事態について、組織の長として責任を取ることにちゅうちょはない」「けじめをつける」と述べた。不出馬を党改革の第一歩に位置付け、「新たなリーダーを一兵卒として支える」とも語った。ただ、その先にはどのような展望を持ち合わせているのかは伝わってこなかった。 政治資金規正法の改正を巡っては、再発防止に向けた罰則強化など一定の方向性は打ち出した。しかし、政治資金を監査する独立機関の制度設計や政策活動費の透明化など課題は残されたままだ。
退任によって、自身の責任問題に決着をつける考えのようだが、積み残る課題解決の道筋を付けないままでは、責任回避の指摘は免れまい。野党は「自民党の体質は変わらない。過去を忘れてもらう手法に引っかかってはいけない」と厳しい視線を送る。 党の信頼回復には、総裁の責任にとどまらず、問題にかかわった議員一人一人の自覚と反省が欠かせない。首相の退任を幕引きとせず、有権者に対する説明責任を果たし続ける必要がある。党内に求められているのは自浄能力だと改めて認識すべきだ。 総裁選に向けた党内の動きは一気に加速するとみられる。「数の力」で勝敗を左右してきた派閥の多くが、裏金問題を受けて解散した。それでも、従来の派閥を基にした集まりは温存され、影響力を保ち続けているとされる。密室の会合で物事が決まるような旧態依然の総裁選となれば、国民の理解は得られにくいのではないか。 総裁選の選挙期間は、前回の12日間から拡大する方向で調整されている。候補者が政策や政治理念を訴える機会を増やす狙いがあるという。透明性の高い選挙戦を実現できるかどうかが、党改革の試金石になる。(角田守良)