すぐに登れると思っていたシャルプーⅥは、近くて遠い存在だった 【日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊2023撮影記】♯07
想定の範囲外
5、600mまで標高を上げるとコルに出た。いままでの行程はひとつの谷のなかだったため、ようやく尾根の反対側の景色を見ることができた。見渡す限り山々が連なり、遠くには世界第5位の標高をもつマカルーが見えていた。たくさん山があるんだなと改めて実感する。 ここからは標高約6、000mの前衛峰タナプーへと伸びるリッジを進んでその基部を目指す。基部にたどり着くと、思っていた以上に斜度がある雪壁が立ちはだかった。普段ならなんてことのない雪壁、日本でも経験のある斜度ではあったが、このときの雪質は悪く、アックスを振り込んでもザラザラの雪を切ってしまい、支持力は得られなかった。また、周りにはガラガラの岩しかなく、雪にしろ岩にしろ万が一落ちたときに止めるための支点として十分に機能させることができないと感じた。登れるかもしれないという気持ちもあったが、本調子ではない体も相まって、ここは行けないんじゃないかと思ってしまったのだ。金子君と相談し、装備的にも今日は行けないと判断し、後方を来ていた花谷さんたちと合流した。話し合いの末、別ルートを検討しながら一旦C1へ戻ることに。そもそもタナプーに登攀はないと考えていたためクライミング装備はベースキャンプに置いてきていたのだが、それが大きな誤算だったのだ。 C1へ戻るとサキさんに高山病の症状が強く出始めていた。吐き気や頭痛で座っているのも辛そうな状態だった。戻って正解だったのかもしれない。C1で小休止をとると下山の準備を始めた。24日からは天候が崩れていく予報が出ていたことと、別ルートに可能性を見出すほうがいいと考え、すべての装備を下ろすことになった。日程的に残りが少なかった花谷さんが同行できるのはここまでとなった。
次のルートを模索して
一夜明け24日、別ルートの有力候補だったベースキャンプから近く、シャルプーⅥ峰の南側のコルに抜けるルートを偵察に向かった。結果的には、タナプーを越えていくよりももっと悪かった。落石や懸垂氷河の崩壊のリスクが非常に高い場所だったのだ。装備は降ろしてしまったが、最初のトライと同じルートからタナプーを越えるのがいちばん可能性が高いということになった。25日はレストを取り、26日からクライミングの装備を持って荷上げとルート工作を事前に行なうことに決まった。 ここからは花谷さんに別れを告げ、3人での登山が始まった。26日と27日の2日間で氷河上の傾斜が強い場所に1本、タナプーの基部に1本、フィックスロープを設置した。気温が下がった影響か、このときのタナプーの基部は雪が良い状態に変わっており、簡単に登ることができた。また、ロープを伸ばした先の岩に比較的信頼できる支点も作ることができた。高所への順応もだいぶ進み、明らかにパフォーマンスが上がってきていた。28日、29日と2日間ベースキャンプでレストを挟み、30日から2回目のゴーアップを決定した。