すぐに登れると思っていたシャルプーⅥは、近くて遠い存在だった 【日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊2023撮影記】♯07
すぐに登れると思っていたシャルプーⅥは、近くて遠い存在だった 【日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊2023撮影記】♯07
ついに初めてのシャルプーⅥへのトライが始まった。 立ちはだかった高所の壁。一筋縄ではいかない未踏峰アタックの厳しさを突き付けられる。 編集◉PEAKS 文・写真◉石川貴大。 \ #6はこちら / 。
ついに始まる本番
天候の予想を踏まえ、ややタイトではあったがゴーアップの日程を10月22日から24日に決定した。22日の朝、ダワさんに登山の安全を願う「プジャ」という祈祷をしてもらったあと、ベースキャンプを出発した。まず、TC1を回収し、5、300mのC1までテント装備を上げた。みんな黙々と荷上げと準備をこなしていくが、どことなく隊全体に偵察や荷上げのときにはなかった緊張感が漂っていた。未知の領域に入り込む不安と登頂への期待が入り混じった感じだ。 C1からは、夕焼けのなかに世界第3位の標高をもつ巨大なカンチェンジュンガがそそり立っているのが見えた。山々が力強く存在する世界でちっぽけな人間の存在を実感する。それぞれ夕焼けをじっと眺めながら明日の登山を思った。翌日は3時に起床して行動を開始するので夕食を早々に済ませ、19時には寝袋に潜り込んだ。
高所の影響を感じる朝
23日の午前3時。やはり、5、300mともなると冷え込みも強くなる。外気温はマイナス5℃ほどに感じた。私はこの日ほとんど眠ることができなかった。少しウトウトはしたが1時間寝れたかどうかという感じだ。サキさんも似たような感じだった。寝不足はよくあることと思い、朝食を食べ始める。だが、いままで食べていたアルファ米がなかなか喉を通らない。仕方なく食べきることは諦めて半分残した。こんなに食欲が落ちたのは初めてだった。サキさんはテントの外で少し吐いていたようだった。緊張と高所の影響を実感する。 まだ陽が昇る前の暗闇に寒さを感じながらテントの外に出て準備を始める。金子・石川、花谷・サキでそれぞれペアを組みロープを結んだ。ここからはいよいよ氷河上を歩いていく。金子・石川のペアが先に氷河に取り付いた。氷河の氷にアックスとクランポンを効かせながら登る最中、息切れとともに少し吐き気を感じていた。喉になにか詰まる感じがしてむせる。なんだろう、この重さは……。そんな私とは違い、ロープを結んでいた金子君は好調に見えた。 少し平坦になった場所で気持ちを切り替える。病は気からではないが、大きな呼吸をして「ハッ! 」っと力を入れ直すと、先ほどまでの不調がなくなってきた。日が当たるようになると気持ちも和らいだ。しかしながら、氷河にはクレバスという巨大な氷の割れ目が点在しているので、慎重にルートを選びながら進んでいかなければならない。