広場を囲む左右対称の均整取れた壮麗な建築群、後の規範に…「旧九州芸術工科大学校舎」国登録有形文化財に
国の文化審議会が22日に行った文部科学相への答申で、福岡県内では福岡市南区塩原の旧九州芸術工科大学の校舎5件(環境画像棟、工業音響棟、画像特殊施設棟、音響特殊施設棟、工作工房)と、東区箱崎の旧大學湯、福津市津屋崎の旧玉乃井旅館の計7件を新たに登録有形文化財(建造物)とすることが盛り込まれた。(原聖悟、興膳邦央) 【写真】戦後初期の集合住宅、当時としては珍しい7種の間取り…福岡市博多区「冷泉荘」国有形文化財に
旧芸工大は現在、九州大芸術工学部となっている。5件の校舎は当時芸工大助教授だった、香山寿夫・東大名誉教授らが設計。1970年に建設された。鉄筋コンクリート造で、広場を囲む左右対称の均整の取れた壮麗な建築群が、後の規範になったと評価された。
大學湯は32年に創業。地域の銭湯として親しまれてきたが、2012年に廃業した。現在はレンタルスペースなどとして活用している。木造平屋建てで、昭和初期の洋風な外観と内装が、旧九州帝国大から続く箱崎の学生街の歴史を物語る景観として評価された。
登録されれば、県内の銭湯建築としては初めて。所有する一般社団法人の代表理事で創業者の孫の石田健さん(69)は「孫の特権で、帰省すると一番湯に入れ、牛乳も飲み放題だった。修繕など苦しかったが、崩さずに踏ん張って良かった」と振り返った。
旧玉乃井旅館は、津屋崎海岸近くに立つ木造2階建ての元旅館。1909年(明治42年)の建築と推定され、南側の棟は、いずれの客室も海に臨む広縁が設けられている。
建物を所有する一般社団法人の代表理事で1級建築士の金気順也さん(60)は「木造旅館が立ち並んでいた海岸の歴史を伝え、訪れた多くの人の記憶も積み重なる建物。価値が認められたことはうれしく、これからも地域の宝として大切にしていきたい」と話した。
今回の7件の登録で、県内の国登録有形文化財(建造物)は229件となる予定。
コミュニケーション空間
旧芸工大校舎を設計した香山氏らのテーマの一つが「コミュニケーション」だ。
校舎は、それぞれ左右対称の均整の取れた建物群が、中庭を中心に囲むように配置。集中性と安心感が高まり、自然と学生や教員が集い、対話する空間として機能する。近年、教育現場で重視される「アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)」の視点を50年以上前から取り入れており、九大芸術工学研究院の田上健一教授(建築計画学)は「非常に先進的」と指摘する。
旧芸工大OBの尾本章・九大芸術工学研究院長は「自分たちが毎日いた場所が、登録されることとなり、誇らしい。これをきっかけに多くの方にキャンパスを知ってもらいたい」と話していた。