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【書評】主人公の成長も楽しみな江戸時代ミステリ新シリーズ 『きたきた捕物帖』

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婦人公論.jp

◆「捕物帖」でもあり、「成長小説」でもあり 大川(隅田川)東岸の本所深川は、この著者のまさにホームグラウンド。掌(たなごころ)を指すように知り尽くしたこの地を舞台に、新しいシリーズが始まった。 【写真】主人公の成長物語でもある新シリーズ 江戸は深川元町の岡っ引き、千吉親分のもとで下働きをする少年・北一(きたいち)が物語の主人公だ。千吉は戯作本や読本を入れる厚紙製の箱(文庫)を商い、〈文庫屋〉と号したが、鍋のふぐに〈中毒(あた)って〉急死する。 〈文庫屋〉の商売は一の子分・万作が継ぐが、十手を引き継ぐ者がいない。万作は強欲な妻の言いなりで、千吉の妻・松葉と北一を家から追い出す。長短4話からなる本作では、深川の差配人〈富勘〉こと勘右衛門、〈欅屋敷〉の青海(おうみ)新兵衛といった個性豊かな大人たちに助けられ、北一が商売でひとり立ちするまでが描かれる。 親分を失った北一の周囲では、不可解な事件が相次いで起き、第二話「双六(すごろく)神隠し」では推理も冴える。目の見えない松葉も意外な名探偵ぶりを発揮する。第一話「ふぐと福笑い」の事件では、気配を敏感に察知し、真実にたどり着く彼女の特異な能力が示されるのだ。「みかり様」の神託をめぐって複数の死者が出た最終話「冥土の花嫁」の事件では、松葉は容疑者の面前で千吉の十手を振るう。自身の推理を弁じる堂々たるその姿は、じつに印象的だ。 第三話「だんまり用心棒」から深川の東端にある「長命湯」の使用人、喜多次(きたじ)が登場する。「烏天狗」の一族だという喜多次は、北一の右腕として本所深川地域で神出鬼没の大活躍をするが、まだ謎が多い。 北一はいつか岡っ引きの跡を継げるのか。「捕物帖」でもあり、「成長小説」でもあるこのシリーズ、今後の展開がじつに楽しみである。 『きたきた捕物帖』 著◎宮部みゆき PHP研究所 1600円

仲俣暁生

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