ファン層拡大狙うも「選手第一」に疑問 クラブ全体の方向性の合致で目標達成見えてくる…J2陥落 コンサドーレの今季を振り返る(下)
夏の宮の沢での練習後、グラウンドに残っていた選手数人が、即席の体力測定を開始した。握力を図り、閉眼片足立ちが何秒できるかなどを競い合っていた。笑顔ではあるが「足がプルプルする」と漏らす仲間の姿を見ていたある選手が、つぶやいた。「試合2日前にやらせることじゃないだろ」。その数人の中には、2日後の試合で先発した者も含まれていた。 クラブは今年、「SNSで60クラブのナンバーワンを目指そう」と打ち出し、様々な企画を積極的に配信してきた。サッカーに興味がない人たちを取り入れることで、ファン層の拡大を図ってきた。その一環として行っていたTikTokは登録者が1万2000人を超え、一定の成果は残した。選手も好意的に協力し、楽しげに取り組む場面は何度も見た。ただ前述の場面だけでなく、長時間に及ぶことも多かった。「選手第一」という考えが徹底されていたか、疑問が残った。 来季は7年間チームを率いたミハイロ・ペトロヴィッチ氏(67)から、岩政大樹氏(42)に監督が代わる。12日の会見で岩政新監督は「選手の補強に口出しすることは大前提としてありません」とし、現在の陣容で十分に戦っていけると強調した。クラブは岩政監督が唯一求めた「競争はさせたいので、各ポジションの人数バランスを」という点を考慮。今いる選手の慰留を最優先に交渉を進めている。現有戦力を確保し、新指揮官が思い描くチームとするには、選手の札幌に対する「愛」も大事な要素となる。 11月、主将のMF荒野拓馬(31)が「来季も札幌でプレーする」といち早く明言した。J1に残留できるか微妙な時期に加え、選手の移籍に関する憶測も含めた情報が、出だしていた。「色んな話が出てサポーターの不安もあると思う。僕が発信することで少しでも安心してもらえたら」と、あえて公に思いを示した。その根底にあったのは、札幌というクラブを良くしたいという深い思い。その部分が失せていくような、現場の考えに沿わない事象が増えれば、選手の気持ちは離れ、皆がひとつになって戦い抜くことはできない。 クラブが思い描く未来像と、チームが目指す方向性がかけ離れていては、1年でのJ1復帰などは果たせない。選手が「このチームのために」と思い、周囲は最大限の力を発揮できる環境と体制をつくる。そこが合致すれば、目標達成は見えてくると信じている。=おわり=
報知新聞社