なぜウクライナで欧米とロシアは綱引きするのか? プーチンの夢「ユーラシア連合」
ウクライナだけは譲れない
反政府派との合意を脇から見守っていたプーチンは怒った。彼には、合意を覆したのは「右翼」ではなく、米国・EUそのものであるように見えたのである。それまで何度も、米・EUに「騙されて」、旧ソ連圏へのNATO拡大を呑まされてきたプーチンにとっては、ウクライナだけは譲れない。そこで彼はまず、クリミア半島を入手する。ここにはロシア海軍の基地が前からあって、陸上兵力も約2万まで駐留を認められていたのである。最低限、扱いやすいクリミア――人口は200万人で、公務員給料、年金等を抱え込んでもあまり負担にならない――だけでも確保しておこうということで、電光石火の早業であった。 そしてロシアは国境を接する東ウクライナに諜報・軍関係者を「私人」として送り込み、内戦状況を作り出す。これで足掛かりを確保、5月末の選挙で選ばれたポロシェンコ大統領と交渉して、東ウクライナに大幅な自治権を獲得するのがロシアの狙いなのだろう。そうしておけば、東ウクライナをNATOとの緩衝地帯にできるからである。 こういうわけで、ウクライナをめぐる東西の綱引きはまだしばし続くだろう。日ロ関係はこの1年進展してきたが、しばらくは様子見だ。11月に中間選挙を控えたオバマは、まだしばらくロシアに厳しい顔をしていたい。その間に同盟諸国がロシアとの関係で抜け駆けをするようでは困るのだ。ロシア極東の人口は中国東北地方の僅か20分の1に過ぎず、経済・軍事力の差も大きい。このように、中国に対するバランスにも大してならないロシアのために、日本の安全保障や経済に欠かせない米国との関係を悪化させるのは引き合わないだろう。 (河東哲夫/Japan and World Trends代表)