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【music】N響・首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィの武満徹に寄りそうスタンス

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婦人公論.jp

◆“自然”な繋がりを聴き比べる NHK交響楽団と首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィが、2~3月にかけて、3年ぶりとなるヨーロッパツアーを行った。新型コロナウイルスの猛威でヨーロッパ各地が大混乱になる前に、滑り込みで全日程を完了。7ヵ国9都市での公演はいずれも高く評価された。このツアーのプログラムで冒頭に置かれていたのは、日本が世界に誇る作曲家、武満徹の〈ハウ・スロー・ザ・ウィンド〉だった。 そして武満の生誕90年にあたる今年、ヤルヴィがかねて望んでいた武満作品によるアルバムがリリースされた。もちろん〈ハウ・スロー・ザ・ウィンド〉も収録されている。 グローバル化の時代とはいえ、各国のオーケストラにはお家芸といえる得意なレパートリーがある。その意味で、ドイツの楽団がベートーヴェンを、フランスの楽団がドビュッシーを演奏するときのように、やはり日本の楽団が武満作品に取り組む際の自然さは特別だ。そのうえN響は武満作品の演奏経験が豊富。ヤルヴィも「彼らは武満の音楽への親和性を持っている」と話す。 武満の出世作〈弦楽のためのレクイエム〉では、優れた弦楽器セクションがシルクのようになめらかかつ明晰な音で、神秘的な空気を創る。〈ア・ウェイ・ア・ローン2〉のフランス音楽を思わせるハーモニーは、虹色の光を放つ。 〈ノスタルジア―アンドレイ・タルコフスキーの追憶に―〉〈遠い呼び声の彼方へ!〉にはソリストとして諏訪内晶子が参加。武満がヴァイオリン・ソロに託した感情表現を、クリーンな音で響かせる。 ヤルヴィは今回、文献や楽譜の研究に加え、武満の娘である眞樹さんから話を聞いたことで、武満について「温かみのある人間性という、もう一つ別の次元での理解を深めた」という。ミステリアスな響きにあふれながら、血の通った感情、ノスタルジックな風景が強く感じられるのは、そんなヤルヴィの武満に寄りそうスタンスによるのかもしれない。 武満徹 : 管弦楽曲集 パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)NHK交響楽団 ソニー 3200円 **** ◆あらゆる経験を積んだうえでの再録音 記念の年を迎え、多くの録音がリリースされている作曲家の筆頭は、生誕250年のベートーヴェンだ。78歳となったイタリアの巨匠、マウリツィオ・ポリーニも、ベートーヴェン最後の3つのピアノ・ソナタの再録音をリリースした。 ポリーニは2014年にピアノ・ソナタ全集を完成させたばかり。このときは、1975年の〈第30番〉〈第31番〉、2年後の〈第32番〉に始まり、後期、中期、初期とさかのぼる形で、39年をかけ、全32曲を録音した。 つまり、ポリーニが前回晩年のソナタを録音したのは、30代半ばの頃。今回は、それ以来、ピアニストとして、人間としてあらゆる経験を積んだうえでの再録音となる。しかも、ポリーニが「互いに結びついている」というこの3曲を一枚に収めるのは、これが初めてだ。 再録音には、昔の録音のシャープな演奏とはまた違った味わい深さがある。ピアニストのうなり声も入った〈31番〉のソナタは、力強い音の中にもやわらかさがあり、高音の輝きには複雑な色が見える。最後となる〈32番〉のフィナーレは、聴いていると、天に昇る瞬間を待つような気分になる。飾ることなく、ありのままに人間の感情を音にしていくさまが心に響く。そして新旧どちらの録音からも、作品の持つ甚大なパワーを音で示そうとする気概を感じる。 年を重ねても尽きることのないエネルギーを持つポリーニにとって、ベートーヴェンが晩年にたどり着いた境地から生まれたソナタを、今、再び録音したいと考えるのは、自然なことだったのだろう。こうして私たち聴き手は、45年前の録音も聴き直し、比べる楽しみを得ることになった。 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番~第32番 マウリツィオ・ポリーニ ユニバーサル 2800円

高坂はる香

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