丁寧な政権運営を強調も、目指す国家像は見えず…石破首相の所信表明演説
石破首相は29日の所信表明演説で、野党の意見も取り入れる丁寧な政権運営を通じ、幅広い合意形成を図る考えを強調する。衆院選の大敗で少数与党に陥った情勢を踏まえれば、他の選択肢はないと言える。
演説では、重要政策課題の最初に「外交・安全保障」を置き、防衛相経験者の首相らしさをにじませた。日本を取り巻く安保環境が不透明感を増していることを踏まえた判断だ。首相は、日米同盟に基づく抑止力強化と対話を通じ「望ましい安保環境を作り出す」と唱えるが、実現には巧みな戦略と外交手腕が欠かせない。まずは来年1月に就任する米国のトランプ次期大統領との関係構築が関門となる。
内政では、地方創生や防災、「闇バイト」対策などに分量を割いた。いずれも国民の安全・安心につながる分野だが、各論の列挙の印象は否めない。先送りが許されない社会保障改革や財政健全化では具体的な言及は避け、目指す国家像は浮かび上がらない。総合経済対策や政治改革に対する首相自身の思いや決意も十分に伝わる内容となっていない。
首相は「謙虚に」「真摯(しんし)に」といった言葉を繰り返し、内外で山積する課題に取り組む上で「国民の後押しほど大きな力はない」と呼びかける。だが、国をどのような方向に導こうとしているのかを明確に示さず、低姿勢で難局を乗り越えようとするだけでは、国民からの支持は広がらないと肝に銘じるべきだ。(政治部 海谷道隆)