「前例がない」 ライオンがヒョウに授乳、異例の異種子育て【動物のふしぎ】
クジラの子を3年育て続けたイルカ、フクロウの巣から顔を出したカモも、なぜ?
野生動物が血のつながらない子どもを育てることは滅多にない。あってもたいていは同じ種の、血縁的に近い関係で起こるものだが、動物が異種の子どもを育てた珍しくもふしぎな例がある。 【動画】ネコの子守はなんとネズミ、 米の猫カフェ まずはアフリカのライオンとヒョウから。彼らは決して友達と呼べるような関係ではない。それどころか、ライオンはヒョウを殺す習性さえある。 だからこそ、タンザニアのンゴロンゴロ保護区で2017年に目撃された光景は関係者を驚かせた。5歳のメスライオンが、生後数週のヒョウの子どもに授乳していたのだ。 「前例のないことです」と話すのは、野生ネコ科動物を保護する非営利団体パンセラの代表を当時務めていたルーク・ハンター氏だ。「野生でこんな行動は見たことがありません」 こうした出来事は例外的ではあるが、ライオンがヒョウを育てることは生理的には可能だとハンター氏は言う。どちらの種も母乳にそれほど違いがなく、育児の期間も大きく変わらない。しかし、考えるべき要素はほかにもある。 メスライオンはいずれヒョウを巣穴に連れ帰ることになるだろうとハンター氏は推測していた。入手できたわずかな写真では、開けた場所でメスライオンがヒョウに母乳をやっていたが、いつかライオンは巣穴に戻る。そこには数頭の子どもたちが空腹で待っている。 うまくいけば、ライオンの子どもたちが大騒ぎせず、メスライオンはヒョウの世話を続けるかもしれない。それでも、巣穴で安全に過ごすのは容易ではない。ハンター氏によれば、ライオンの子どもたちでさえ、1年以内に死ぬ確率は平均で約50%と高い。 「したがって、まだ弱く幼いこのヒョウがメスライオンの子どもたちに加われたとしても、厳しい将来が待っています」 残念ながらこのヒョウの子どもはその後目撃されておらず、どうなったかは謎のままだ。
クジラの子を3年間育てたイルカ、初の報告
次は海へ目を移そう。野生のイルカがクジラの子どもを育てる事例が初めて学術誌に報告されたのは2019年のこと。 仏領ポリネシア沿岸海域で、ハンドウイルカの母親が、ゴンドウクジラの仲間であるカズハゴンドウの幼いオスを世話しているのを研究者たちが2014年に発見した。母親自身の子と思われるイルカも一緒だった。 「こんなまれな現象を目撃できて、本当に興奮しました」。「Ethology」誌のオンライン版に発表した論文の筆頭著者であるパメラ・カーゾン氏はそう話す。それまで、属も種も違う孤児の世話をする行動が学術的に記録されたのは、オマキザルの集団がマーモセットの赤ちゃんを世話していた2006年の例しかなかった。 当初、この母親にはすでに赤ちゃんがいた。だが、そこへ現れた独りきりの幼いカズハゴンドウが母親のもとをほとんど離れずについてまわり、3頭が一緒に泳ぐ姿が頻繁に目撃されるようになった。普通、イルカの母親は1度に1頭だけを子育てするため、異例の光景だ。 母イルカからカズハゴンドウへの授乳も2回確認されている。これは、母親がかなり労力をつぎ込んでカズハゴンドウを育てていたことを示すと、英バンガー大学の行動生態学者のカースティ・マクラウド氏は話す。「哺乳類にとって、母乳を作り出すのはかなりのコストがかかります。とても貴重な資源なのです」 母親はずいぶん長い期間をこの孤児とともに過ごした。2頭が一緒にいる様子は3年近くにわたって目撃され、カズハゴンドウが離乳したと思われる2018年4月ごろに姿が見られなくなった。母親の実の子が1歳半で姿を消したあとも、2頭の関係はずっと続いていた。 だが、大きな疑問が残る。なぜハンドウイルカが、遺伝的なつながりのない子どものためにわざわざ手間をかけるのだろうか? 1つの可能性は、この母親が子どもを産んだばかりで、母性本能が強くなっていたためというものだ。性格も要因の1つかもしれない。母イルカはダイバーたちに寛容なことで以前からよく知られていた。そして、カズハゴンドウ自身の行動も欠かせない。ハンドウイルカの一家に加わり、同じように振る舞おうという決意が、うまく受け入れられる上で重要な役割を果たしたと研究者たちは考えている。