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【帯広刑務所編】一触即発! 「オレの頭にソケット当てといて、シカトかい!」チロリン村頂上決戦②《懲役合計21年2カ月》

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 元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月!  帯広刑務所で印刷工場の配役となったじんさんは、通称「チロリン村」、電気ソケットを作る「モタ」と呼ばれる班でお仕事開始。道産子兄ィとのお仕事「スピード」対決もエスカレート! 一触即発の状態に‼️ じんさん、短気は損だよ。 この記事の写真はこちら ■チロリン村頂上決戦②  あるとき、ボクと道産子兄ィ(木佐さん)がいつものように、鬼のような形相で抜きつ抜かれつの壮絶バトルを繰り返し、意地の張り合いを繰り広げていた。  組み立てるスピードは、ややボクの方が優勢。相手の手元の様子を目の端に捉えながら、こん畜生め! 今日は大差で負かしてやる! 道産子ラーメン野郎に負けてたまるかァ! と思った瞬間、まるでボクの心を見透かしてでもいたかのように、道産子兄ィの手元から、スポンと部品のソケットが勢いよく抜けてボクの頭に飛んできて、スコンと音を立てて当たった。まるで狙いすましたかのように、見事に当たったのだ。  ボクは「チッ!」と舌打ちをしながら、道産子兄ィの方を向いた。道産子兄ィはどこ吹く風といった顔で仕事を続けている。   「木佐さん! オレの頭にソケット当てといて、シカトかい!」  ボクは道産子兄ィを睨みつけた。  すると、道産子兄ィは仕事する手も止めず、顔も向けずに、失礼千万極まりなく、木で鼻を括ったように「ごめんよ」と言った。ボクはその態度に、冗談じゃねえ。何だ、その言い方は……と腹を立てた。    「木佐さんよ、お友達じゃねぇんだからよ、『ごめんよ』って言い草はねえだろう。こっち向いて『どうもすみません』と頭を下げて言うのが、きちんとした謝り方じゃないの」  道産子兄ィに向き直った。わざとでないことはわかっていたのだが、そう言わずにはいられなかったのだ。  すると、道産子兄ィの手がピタリと止まり、ボクの方に顔を向けて何かを言おうと口を開きかけた。  その瞬間、チロリン村の班長がボクたちの間にスッと入ってきて帽子を取り、  「すみません。もう製品をストックする場所がないので、ゆっくりお願いします」申し訳なさそうな顔つきで、禿げた頭を下げた。  一瞬、ボクたち二人のおかしな空気に、気転を利かせて間に割って入ってきたのかと思ったが、偶然だったようだ。  ボクは席の後ろを振り返ってみた。そこにはボクたち二人の意地の張り合いででき上がった製品が山のように堆くなっていた。  「すみませんけど、もう置くところがないので、どうかゆっくりとお願いします」  その堆く積まれた製品に埋もれるようにしていたチャウチャウも、今にも泣き出しそうな顔をしている。  カッカして頭から湯気を噴き上げていたボクは、このことが引き金となって、湯気がだんだん細くなっていき、終いには止まってしまった。  そんなことから、あたかも潮が引くかのようにして、ボクと道産子兄ィとの数週間に及ぶ意地の張り合いは自然終結したのであった。道産子兄ィは、また元の、のんびりとした「お日さん、西、西」で仕事をするようになっていった。思うに、兄ィはただ、道産子ヤクザの意地をボクに見せたかっただけなのかもしれない。  このチロリン村での2カ月間に及ぶ仕事ぶりからボクについた仇名は「仕事師」だった。 (『ヤクザとキリスト~塀の中はワンダーランド~つづく)

文:さかはら じん

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