【みうらじゅんの映画チラシ放談】『甦る三大テノール 永遠の歌声』『ジャスト6.5 闘いの証』
『甦る三大テノール 永遠の歌声』
みうらじゅんさんの前に近々公開される映画のチラシを大量にお持ちして、グッとくるチラシを厳正にピックアップ。映画本編は観ていないので事前知識はほぼゼロ、頼りになるのはチラシ内の情報(と妄想)だけという状態で語っていただく、言いっぱなしの映画チラシ放談です。(ぴあアプリ「みうらじゅんの映画チラシ放談」より転載) 【全ての画像】「みうらじゅんの映画チラシ放談」『甦る三大テノール 永遠の歌声』『ジャスト6.5 闘いの証』 ――今回の1枚目は、『甦る三大テノール 永遠の歌声』です。 みうら 僕、これのいわば前作と言っていいのかな? 三大テノールのひとり、パヴァロッティのドキュメンタリー(『パヴァロッティ 太陽のテノール』(19))をこの前観に行ったんですよ。『甦る三大テノール』といい、渋谷のBunkamuraは今、パヴァロッティに賭けておられるんですかね? それまで僕はパヴァロッティという人がお亡くなりになっていたことも知らないくらい無知だったんですけど。 ――どうしてパヴァロッティに興味を持たれたんですか? みうら Bunkamuraのホールには、ボブ・ディランのコンサートで何度か行ったことあるけど、映画館は行ったことがなかったんです。 ただ、こないだ友人の親の葬式がありましてね。基本葬式って突然ですから、喪服がどこに行ったのか分からなくて、慌てて探してみたんですけど、なかなか見つからなかったんです。訃報を聞いてから2日後に葬式だったので、これはヤバいと思って、家と事務所の衣装棚をひっくり返して、ギリギリ喪服に見えるだろうっていう黒い服を探し出したんです。 ジャケットは黒いものがありました。ズボンは1本だけ、すごく光沢があるけど黒いのしかなくて、仕方がないのでそれで上下を揃えたんです。靴下は、革靴の箱に洗濯もせずに残ってたんですが、前回葬式に行ったときから入ってたんでしょうね。そこで1度寝ようとしたんですけど、白いシャツがあったかどうかが気になって、また起き出して探したんです。そうしたら喪服用のシャツなんてなくて、何だかすごく襟がデカかったんです。 コレはどうかなと思いながら、そのニワカの喪服を着て鏡の前に立ってみたんです。そうしたら、昨今の自分のシロナガス・ヒゲブームも手伝って、鏡に映った姿を見て、これは完璧に三大テノールじゃないかと。ステイホームで太ったパッツンパッツンの腹と、襟のデカいカッターシャツと、伸ばしたヒゲの組み合わせがね。 ――図らずもコスプレになっていたんですね。 みうら そうなんです。葬式は今はマスク着用なので、ヒゲは隠れるからパヴァロッティ感は出さずに済んだんですけど。そのとき、ふとBunkamuraでドキュメンタリーをやっていたのを思い出して翌日、早速観に行きました。そのときにようやく、僕が無意識に似せていたのはこのルチアーノ・パヴァロッティさんだったと分かったんです! 人生で一度もオペラに興味を持ったことがなかったから“喪服テノールの人”という一点で観ていたんですが、そのドキュメントを観て驚きましたね。この方、オペラだけじゃなく、クイーンのブライアン・メイとかU2のボノとか、ロックの人とかとも融合してコンサートをしていたんですね。 あと、この人ってバツイチなんですけど、映画の初っ端から最初の妻が元夫のことを語り出すんです。もうパヴァロッティはお亡くなりになってますけど、以前にザ・バンドの映画のときにも言ったように、別れたのに笑顔で元夫のことを語っていらっしゃる。ああ、これはロックだな、ロックなテイストの人なんだと思ったんですね。 そのドキュメンタリーの副題にあった“太陽のテノール”という表現もそのとおりで、すごく明るく、人柄が良かったみたいですね。笑顔もすごくいいんです。その映画を観て、僕は初めてグッと来てしまいましてね。たまたま喪服姿がパヴァロッティさんに似てしまっただけだけど「今後からはもう、寄せていこう!」と思ったんです。 ――突然、人生の目標ができたみたいですね(笑)。 みうら はい。そのためには当然『甦る三大テノール』も観なくちゃいけないでしょ。 もちろんパヴァロッティさんの単独ドキュメンタリーにも、三大テノールのことは出てきてました。この真ん中の人(ホセ・カレーラス)が病気になって入院しているときに、パヴァロッティさんが訪ねてきて、「お前がいないとライバルがいなくなって困るぜ」みたいな粋な台詞を吐いて復活させて、そこから三大テノールが始まったっていうんですよ。だからこれは、友情の話だと思います。このお三方の中でどのテノールになりたいか? 観る方は一度考えてみるのはどうでしょうか。 ――“心に響く音楽”と書いてありますけど、パヴァロッティの歌はどうでしたか? みうら 映画を観終わって家に戻ってからまた鏡の前に立って、一応、般若心経をテノール気味に唱えてみたんです。声はデカい方なんですが、到底敵いませんでしたね。今後また葬式があったら、もうちょっと練習をして、読経するお坊さんに合わせて般若心経をテノール気味に歌ってもいいかなとは思ってるんですけどね。