大物映画プロデューサーの転落人生、自殺の真相は…エリザベス・ハーレイの元恋人の不可思議な最期
6月後半のある日のこと、スティーブ・ビンは電話に出なかった。それは不自然なことではなかった。映画プロデューサーで不動産会社の後継者でもある彼は、予告なしにいなくなることが時々あったからだ。ごく親しい友人だけが、彼の行先と、頻繁に電話番号を変える理由を知っていた。 彼はロサンゼルスで最もホットな地区センチュリー・シティのテン・サウザンド・ビルディングにある、1カ月の賃貸料が6万5000ドル(約680万円)、4000平方フィート(約372平米)の家でロックダウンに耐えていたが、孤立によって不安の根深さが浮き彫りになった。 【写真】ファッショニスタ必見の80年代映画ベスト12 1990年代、スティーブはハリウッドで小説「グレート・ギャツビー」の主人公ジェイ・ギャツビー風のイメージを作り上げ、スーパーモデルや女優たちとデートを重ねていた。特にエリザベス・ハーレイとの交際は有名だった。 身長約193cmというアスリート並みのすらっとした体型だが、静かで捉えどころがなく、独特の雰囲気が魅力を放っていた。そして、NY で20世紀初頭に最も成功した、家族が経営する不動産開発会社Bing & Bingから6億ドルの財産を相続したことを重視しないようかなり努力していた。伝説の大富豪ハワード・ヒューズのように、一度は映画界を支配する自分を夢想した。が、事は計画通りには運ばなかった。 死亡した時、彼は55歳。プロデュースした映画のほとんどは大失敗に終わった。その中には、ジェームズ・カーンやジェリー・リー・ルイスと並ぶ80歳代のスターの一人で、スティーブが敬服するウォーレン・ベイティが脚本、主演、監督も務めたヒューズの伝記映画『ハリウッド・スキャンダル』(2016)もあった。 彼と仲間が夢見たあの素晴らしいLAはなくなってしまった。心配した友人たちからの連絡には何日も返答がなかった。彼らはスティーブが下降スパイラルに陥っているのではないかと不安になった。 6月22日の夜までに、ビル・クリントンやミック・ジャガーなど彼に最も近い取り巻きのほとんどがニュースを聞いた。その日午後1時をちょうど回った頃、ビンがアパートメントのバルコニーから飛び降りたことを。 その夜、クリントンは「私はスティーブ・ビンが大好きだった」とツイートした。「彼は大きな心の持ち主で、人々や自分が信じる理念のためにできることは何でもやろうとした。彼と彼の熱意を失ったことを言葉では言い表せないほど寂しく思う」 数時間以内に、インターネットにはスティーブは自殺したのではなく、性犯罪者のミリオネア、故ジェフリー・エプスタインとの関係から殺されたのだという陰謀論が駆け巡った。友人たちはこれを馬鹿馬鹿しい話で、侮辱的だとすら思った。 2人は一度も会ったことがなかったと近しい人々は言い、孤独が彼を自殺に追いやったのだと推測した。しかし、真実を知る人はほとんどいなかった。スティーブは経済的破綻の瀬戸際にあり、長いこと隠していたその秘密がばれるのを恐れていたのだ。まずい賭けや未払いの請求書、誤った選択によって、死亡時の彼はほぼ無一文になっていた。