米国大統領の「トランプ」と恐怖政治に走った「ロベスピエール」…2人のポピュリストの「意外な共通点」と「決定的な相違点」
2024年11月、稀代の〈ポピュリスト〉であるドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に返り咲くことが決まりました。そして、奇しくもこのタイミングで、フランス革命で活躍した元祖〈ポピュリスト〉の評伝『ロベスピエール 民主主義を信じた「独裁者」』(新潮選書)が刊行されました。はたして2人の〈ポピュリスト〉には、どのような共通点と相違点があるのでしょうか。同書の著者で、明治大学准教授の高山裕二さんが解説します。 【画像】銃弾で砕けた顎はだらりと下がり…スピード処刑された「ロベスピエール」を絵画で見る
■現代世界の「専制化」の傾向
2022年5月、拙著『ロベスピエール 民主主義を信じた「独裁者」』の元となった連載原稿の冒頭で、わたしは次のように書いている。 《そのトランプ氏がとりあえず退いた後のアメリカ、そして世界の政治は今後どう変わるのか、変わらないのか。それを予測することは難しいが、ひとつだけ確かなことは、民主制度(≒普通選挙制)を採用する国々において「専制化」――端的に言えば執政府への権力集中――がますます進む傾向にあるということである。現に普通選挙、複数政党による競争型選挙が一応でも実施されている国々でそうした傾向が見られる。》 2年半余り、このような「専制化」の傾向は衰えていない(その後、世界の「権威主義化」については優れた研究も公刊された。東島雅昌『民主主義を装う権威主義――世界化する選挙独裁とその論理』千倉書房、2023年)。そして先日、ドナルド・トランプ氏がアメリカ合衆国大統領に再選された。「とりあえず退いた」というのは、もちろん再選を意識した上での表現だったが、これほど選挙人数上大差で再選されるとは筆者も予想外だった。その要因はともかく、先の大統領選で選挙結果を受け入れず、またそれを不服として連邦議事堂に乱入した暴徒を煽動するかのような発言をした人物が、再び大統領に「民主的」に選出されたのである。 上下両院でも共和党が多数を獲得する、いわゆるトリプルレッドになる見通しである。このことは、大統領の再選それ自体よりも政治的な影響は甚大である。なぜなら、同党大統領への権限が確実に集中しうるからだ。さらに、アメリカ合衆国憲法は大統領の3選を禁じるが(修正22条)、憲法改正によって3選を「合法的」にすることも理論上は可能である(改正には両院の3分の2による発議に加えて、州議会の4分の3の承認が必要で、現実的には難しい)。 こうして、かつて民主国家のモデルとされ、今でも経済・軍事両面で最大の国家であるアメリカ合衆国でも、「専制化」(=権力集中)の傾向が見られる。それでも、それは驚くべきことではないかもしれない。先ほどの引用箇所に続けて、わたしはこうも書いている。 《むしろ、民主主義だからこそ、そのような傾向が現出するのかもしれない。そうだとすれば、それはトランプ氏の突飛な言動によってもたらされた一時的な現象として片づけられるような種類の問題ではない、ということになるだろう。》 民主主義にもかかわらずではなく、民主主義だからこそ生じる「専制化」。なぜか? 民主主義はもともと「デモス」(人民)の支配を意味し、その一体性を前提とするが、実際には「人民」なる主体は存在しない。そのため、「人民」の名の下に、その声を体現すると称する指導者が現れ、彼とその周辺に権力が集中する傾向がある。また、真の人民(国民)ではないとされる者を排除することで、その一体性を強化しようとする傾向が生まれる。 こうして、自分は真の人民(国民)の代表者であると主張し、人民の真の利益に反する主張をしているとされる者を「敵」として攻撃する指導者のことを「ポピュリスト」と呼ぶ。その元祖の一人はロベスピエールだろう。では、彼は現代の「ポピュリスト」と同じだろうか。 このエッセイでは、トランプ氏が再選された政治状況を念頭におきながら、拙著『ロベスピエール 民主主義を信じた「独裁者」』(新潮選書)をもとに元祖〈ポピュリスト〉の特徴を瞥見することで、トランプ以後の民主主義の課題について少し考えてみたい。