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森保ジャパンに欠けているピースとは? 広島時代の栄光と失速に見る、日本代表の前途

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REAL SPORTS

今年1月に行われたAFC U-23選手権でのグループリーグ敗退後、新型コロナウイルスの影響で長期間試合が行えず、A代表とオリンピック代表の「兼任問題」も浮上するなど、決して順風満帆とはいえない状況に置かれている森保一日本代表監督。彼がサンフレッチェ広島の監督に就任した2012年からそのチームづくりを追い続けてきた中野和也氏の目に現在の日本代表監督はどう映っているのだろう? 2012年から4年で3度のJ1優勝の栄冠を手にし、2016年以降に失速。常に「『個人』にアプローチしている」というその戦い方と結果を丁寧に振り返ることで、森保監督の手腕を改めて評価し、日本代表の今後を占う。 (文=中野和也、写真=Getty Images)

仲間のために爆発させた「怒り」

一度だけ、森保一に抱きしめられたことがある。 2012年、サンフレッチェ広島はJリーグで初優勝し、FIFAクラブワールドカップに出場することができた。あれはその2戦目、アルアハリ戦の前々日だったと思う。冒頭15分公開のトレーニングが終わり、森保のインタビューが終わって、他の記者たちがいなくなった瞬間、指揮官が「もう我慢できない」という調子で僕だけを呼んだ。明らかに憤(いきどお)っていた。 何か僕が書いた記事で、気に入らないところがあったか。事実が間違えていたか。いろんな考えが頭をよぎる。思い当たる節はないが、とにかく話を聞いてみよう。 怒気を含んだ声で、監督は言葉を発し始めた。 「Jリーグアウォーズでどうしてカズ(森崎和幸)がベストイレブンに選出されないんですか。彼はMVPでも不思議ではないのに、絶対におかしい」 思わず「そこかいっ」と言いそうになったのは秘密である。そもそもJリーグアウォーズに記者の投票権はない。監督と選手たちの投票で決まるというのが建前である。その結果に対して、記者は責任を持ちえない。ただ、監督の怒りはよくわかる。12月3日、現場の横浜アリーナでリストを見た時、「考えられない」と思わず吐き捨てた。 MVPの佐藤寿人は当然。22得点という得点数、得点王を獲得したという実績だけでなく、キャプテンとしてチームをよく牽引したという意味も含めて。広島からベストイレブンに選出されたのは5人。西川周作・水本裕貴・青山敏弘・高萩洋次郎・寿人。MF部門で最後に呼ばれたのは高萩で、彼は名前を呼ばれた瞬間、喜びよりも戸惑いが先に立っていた。「カズさんが呼ばれると思っていた」と後にコメントしている。 もちろん、高萩の選出も当然である。34試合フル出場で4得点12アシスト。中村憲剛の13アシストに次ぐ記録を残して優勝に大きく貢献した彼がベストイレブンに選出されなかったら、誰を選べばいいのか。 森保も僕も、誰が選出するに値しないかを論じているわけではない。ただ、誰が選ばれるべきかを優先して考えた時、真っ先に名前が挙がるはずの選手の名前がない、ということだ。ゴール数もアシストの数も突出しているわけではない。しかし、広島の優勝を振り返った時、寿人と同じくらいの情熱で広島担当記者はカズの名前を挙げた。 不世出といっていいほどのストーリーテラー(ゲームメーカーという呼び名では彼の役割は表現できない)であるカズは同時に理解されにくい選手としても屈指である。圧倒的な基礎技術の高さは誰でも理解できるが、広島で彼と一緒にやったことのある選手たちとそれ以外とでは、「カズはうまい」の意味合いが違っている。リズムを構築し、ゲーム全体のグランドデザインを構築してチームを動かす彼の能力は、あまりに自然すぎるのか、あまりに深すぎるのか、なかなか理解を得られないのは事実だ。 だが、それにしても、である。パス成功率は90%を超え、ミスなど数えるほどでしかなく、青山をして「カズさんとコンビを組んでうまくやれない選手はいない」と言うほど、周りの能力を徹底して生かしているカズが、どうして選出されないのか。そもそもJリーグアウォーズが選手・監督の投票で決まるのは、プロフェッショナルの視点で理解されづらいけれど活躍している選手たちを評価するためではないのか。 筆者は広島担当の記者たちと進めていた企画を、森保に告げた。 「彼の不選出はあまりに酷い。なので、僕たちは勝手ではありますが、広島メディア総意として『MIP』に彼を選出し、クラブワールドカップが終わったら彼を表彰させてください」 その瞬間、森保一は僕を抱きしめた。 「ありがとうございます。ありがとうございます」 何度も何度も、そう繰り返した。

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