日本人は前例主義から脱却できるか? 押印廃止では印鑑業者への「割増退職金」も一手
押印廃止をスムーズに進めるためには、印鑑業者に「割増退職金」を支払うことが有益だ、と筆者(塚崎公義)は考えています。
政府は押印文化の見直しへ
政府は、押印文化を見直すことにしたようです。もともと押印には法律的な意味があるわけではないので、これを廃止すれば行政の効率化になるでしょう。決済文書への押印は電子化すれば良いでしょうし、各種届出への押印は不要でしょう。100均で買ってきた三文判を押せば良いのなら、押さなくても同じですから(笑)。 これに倣って民間でも押印廃止の動きが出てくることが期待されます。「在宅勤務なのに押印のために出社した」といった話も聞かれるので、決済印は電子化すれば良いですし、契約は両者が合意すれば成立するので、押印は法的には不要ですから。
印鑑製造業者への配慮が必要
問題は、印鑑製造業者が一気に仕事を失ってしまいかねないことです。競争に負けて仕事を失うリスクはビジネスを行う際には当然にあるわけですが、今回はそれとは事情が異なります。 政府が「気が変わった」からビジネスを失う、というのは可哀想な気もしますし、何よりも反対運動が起きかねないからです。競争に負けて退出する企業は、勝者に対して反対運動を起こすことができませんが、政府の方針変更で退出を迫られる企業は政府に対して反対運動をすることが可能ですから。 万が一にも印鑑業界の反対によって押印文化の見直しが滞るようなことになっては、損失が大きすぎます。したがって、彼らに静かに退出してもらうために「廃業奨励金」を支払うのです。 会社の都合で従業員に辞めてもらう場合、解雇するのはかわいそうだし反対運動も起きそうだから、「割増退職金」を支払うことで円満に退職してもらおう、というのは企業では珍しくないでしょうから、今回もその発想を応用しよう、というわけです。
正義の問題は若干面倒だが
廃業奨励金など不要だから、どうしても印鑑製造業を続けたい、という業者もあるでしょう。そういう業者を無理に廃業させるのはかわいそうだ、ということは言えそうです。 彼らに廃業してもらうことが国全体としては利益になるわけですが、だからと言って「絶対嫌だ」という人を無理矢理廃業させるというのはいかがかと思います。 もっとも、そうした業者は腕が良いでしょうから、実印等々のニッチな分野で生き残っていけるでしょう。過度な懸念は不要でしょう。 反対に、なぜ印鑑製造業者だけを優遇するのか、という議論もあるでしょう。それについては、政府の都合で酷い目に遭う人には原則として補償すべきだ、と考えます。たとえば新型コロナ対策として、休業要請を受けて休業した飲食店等々です。 もっとも、政府が外出自粛要請を出したことで売り上げが落ち込んだ飲食店にまで補償するとなると、自粛要請と売上減少の因果関係の立証が難しいので、持続化給付金といった措置になるのでしょうが。