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〈かごしま法廷傍聴記〉「おなかの子もおる。やったらあかん」…覚醒剤の誘惑絶てずに3度目逮捕 固い約束交わした親方への背信

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南日本新聞

 「こいつを薬物から抜けださせてやりたかった」。ややこわもてで白っぽい作業着姿の中年男性が証言台に立った。覚醒剤使用の罪で起訴された20代の男が「親方」と慕う、勤め先の建設業社長だ。  覚醒剤取締法違反容疑で2度逮捕された過去を受け入れ、「もう罪を犯さない」との約束を交わし約2年前に男を雇い入れた。職場の誰にも刑余者と明かさず「墓場まで持っていくつもりだった」。  仕事で厳しく指導する一方、追い込みすぎないよう私生活には一切口を挟まなかった。「1人では克服できないだろうから共に闘おう」。食事や飲みにもたびたび誘った。仕事ぶりは申し分なく「自分の技術を継がせたいと思った数少ない男」と高く買っていた。  3月下旬のある日、「体調が悪い。早退する」と告げられた。その後何度電話しても通じず、警察官、大家と翌日、男のマンションへ。「生きていた」。安堵(あんど)した次の瞬間、横たわったまま動こうとしない姿に違和感を覚えた。目つきや表情から再び覚醒剤を使ったと気付くまでに、そう時間はかからなかった。

 「結局は固い約束じゃなかったんだな」。裏切られた気持ちを吐露。あえて突き放したかのようだった。被告が社会復帰できたら再び雇用するか。弁護人の問いに「可能性はゼロでないが、先のことは分からない」。その後すかさず「ゼロとは言いたくない」と言い直した。微妙なニュアンスの違いにまな弟子への複雑な思いがにじんでいた。  Tシャツ、短パンを着た丸刈りの男は被告席でうなだれながら聞いていた。男性の足元に目線を落とし、微動だにしなかった。  18歳で初めて薬物に手を染めた。地元・大阪で覚醒剤を繰り返す友人らと関わりを続け、3年前に前回の刑期を終えて出所して程なく、再び使い始めた。  「もうやめたい」。人間関係を絶とうと電話番号を変え、福岡に引っ越した。そこで友人を介し、鹿児島から出張中の親方と知り合った。2週間ほど一緒に働いたことをきっかけに親方の下で働く決意を固め、過去を告白した。  鹿児島でも覚醒剤を使いたい気持ちに何度も駆られた。「責任ある仕事を任せてもらい、妻やおなかの子どももおる。やったらあかん」。そう思い耐えてきたが、3月に離婚し自暴自棄に。誘惑に負けてしまった。

 なぜ親方に相談しなかったのか、との検事の質問に「勇気がなかった。言いたいことをため込むのが自分の弱さ。迷惑を掛けた」。「過去2回の裁判でも反省していたはず」。裁判官がただすと、「とにかく変わらないといけない」と絞り出すのが精いっぱいだった。  懲役2年、うち4月について保護観察付き執行猶予2年とする判決が言い渡された。  「受け入れてもらえるか分からないが、社会復帰できたらあの人の元に行って話をしてみたら」。裁判官が判決後の訓戒で親方に触れると、男は静かにうなずいた。法廷内で目を合わせることがなかった2人。再び視線を交わす日が来るだろうか。

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