集中力を削ぐモノなし 996型ポルシェ911 GT3(2) 本質的な「最適解」のスポーツカー
素朴さが新鮮な車内 集中力を削ぐモノなし
996型ポルシェ911 GT3の開発を、ローランド・クスマウル氏が振り返る。「軽いシングルマスのフライホイールの必要性も、上層部へ提言しています。アイドリング時に生じる、MTからの異音や振動で、故障したと勘違いされると反論されましたけどね」 【写真】ハイパフォーマンスの「ベンチマーク」 ポルシェ911 GT3 996型と992型 GT1も (118枚) 「そこで通常のGT3には、一般的なデュアルマス・フライホイールを設定。クラブスポーツ仕様では、レーシングクラッチとともに、シングルマスを装備するという妥協をしています。販売では、クラブスポーツの支持率が高いことは明らかでした」 今日の996型GT3は、通常仕様でデュアルマス。クスマウルが説得を重ねて設定が決まった、ロールケージや6点式ハーネス、消化器なども備わらない。それでも現代の感覚では、車内空間がゴージャスだというわけではない。 ステアリングホイールの位置は完璧。足もとにはペダルが3枚。正面には5リングスのアナログメーター。右手には6速MT用のシフトレバーと、簡素なラジオ。これでも当時は、993よりだいぶ豪華なインテリアだとみなされた。 今ではむしろ、素朴さが新鮮。集中力を削ぐような、タッチモニターやラップタイマーなどはない。トラクションやスタビリティ・コントロールの調整ダイヤルも。運転をアシストする唯一の装備といえるのは、アンチロック・ブレーキだけだ。
多少の慣れが必要 低い速度域でも面白い
「何も助けるものはありません。あなたがドライバーです」。クスマウルが笑顔で話す。スタート地点は、オーストリア・ハーンテンヨッホ峠。眼下に、つづら折りの道が伸びている。リラックスしてスタートさせたいところだが、自制するのは難しい。 GT3は親しみやすく、数kmも走れば限界領域を理解できる。少なくとも、ヘアピンカーブへ突っ込めば、エンジンの搭載位置はすぐに理解できる。 ブレーキングポイントを遅らせて、ノーズをカーブの頂点へ押し込んでいくのでは、望ましいコーナリングはできない。アンダーステアになるだけだ。 早めのブレーキングでノーズを落ち着かせ、そっとパワーを掛けながら侵入。出口が見えたら、リアの荷重を活かし脱出加速へ繋げていく。最新の911に乗り慣れているドライバーは、多少の慣れが必要だろう。そのかわり、低い速度域でも面白い。 操る行為への集中力が低く、ラインを読まず、速度や回転数への注意がおろそかだと、996型の運転は労働に感じられてしまう。これらを意識し、我が物にすれば、体験へ没入できる。どんな価格帯のモデルにも、引けを取らない深さで。 現代のモデルと比較すれば、996は小柄。アルピーヌA110より全幅は狭い。ワインディングで駆り立てても、自分の車線内でコーナリングラインを調整していける。