Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

貧困、DV、虐待……スケボー少年たちを通してアメリカの今を描く『行き止まりの世界に生まれて』

配信

  • この記事についてツイート
  • この記事についてシェア
HARBOR BUSINESS Online

 ”アメリカで最もみじめな街”イリノイ州ロックフォードに暮らす3人の若者たちを追った、ビン・リュー監督作『行き止まりの世界に生まれて』。  同作は、ビン監督自身をも含む、スケートボード少年3人のドキュメンタリー。彼らの生活を通して、貧困、DV、児童虐待、人種差別などアメリカ社会が抱える問題点を浮き彫りにすると同時に、その環境から脱しようとする若者たちの姿をすがすがしく描く力作だ。

スケートボードを頼りに生きる3人

 本作の舞台はアメリカイリノイ州ロックフォード。ラストベルト(the Rust Belt)と呼ばれる地域にロックフォードはある。ラストベルトはその名の通り、「さび付いた帯状の地帯」。アメリカ東部から中西部にかけての五大湖周辺を指すが、かつては製造業や重工業の中心地だった。  本作の主人公たちの親の世代は、高校を出て大企業の工場で働けば小さな庭付きの一軒家を買えた。日本の高度成長期と同じく、頑張ればより良い明日が手に入る。小さなアメリカンドリームを皆が信じて、そしてそれぞれに実現していた。  ところが、アメリカの製造業は斜陽を迎える。1980年代から人口は徐々に減少、廃墟となった工場があちこちに目立ち、豊かさの代わりに、犯罪や暴力、薬物が日常的に横行するようになった。2016年のアメリカ大統領選の「アメリカをもう一度偉大に(Make America Great Again)」というキャッチフレーズが住民に最も刺さったとも言われる地域でもある。  そんなラストベルトの一角に住む黒人のキアー、白人のザック、そして本作の監督でもある中国系のビン。彼らは人種こそ違えど、DVや体罰など暴力が絶えない家庭で育った。  大人になっても彼らの将来に明るい展望はない。産業が衰退し、アメリカの繁栄から取り残されたロックフォードにはそもそも働き口が少ないのだ。  プロスケーターを夢見るキアーが初めて就いた職業は皿洗い。手に職がないため他に選択肢はなかった。ザックは仕事先でのシフトを増やしてもらうことができず、いつも給料日の1週間前にお金が尽きてしまう。屋根職人以外の選択肢を得るために高卒認定試験を受けるが、質問すら理解できない。「最近やけに不安なんだ」と将来を憂う姿が映し出される。  荒れた家庭、先の見えない将来。そこから束の間の休息を得るかのように、彼らはスケートボードに熱中していた。  「傍から見ればバカみたいだろうけど、スケボーは制御(コントロール)だ。細部までコントロールしないと、イカれた世界でマトモでいられない」と語るザック。  ビン監督は自分と、そして自分と同じくスケボーに救いを求める仲間2人、合わせて3人の少年時代からの12年間をカメラに収めた。苦境に直面しながらも何とかそれをクリアしようとする姿は、スケードボードで「ギャップ=段差」を乗り越えようとするする姿そのものと重なるものだった。

【関連記事】