J1で残留争いもカップ戦では準優勝。悲喜こもごもの戦いを余儀なくされた新潟で、松橋力蔵監督が貫いた信念。気になる去就は?
「俺は絶対に変えない。変えるくらいだったら辞める」
就任1年目の2022年にJ2優勝を果たし、2017年以来6年ぶりのJ1参戦を果たした23年に10位と躍進を遂げた、松橋力蔵監督が率いるアルビレックス新潟。しかしながら、今季は悲喜こもごもの戦いを余儀なくされた。 【画像】ゲームを華やかに彩るJクラブ“チアリーダー”を一挙紹介! カップ戦ではルヴァンカップでファイナリストとなり、名古屋をあと一歩というところまで追い詰めたが、リーグ戦では低迷。12月8日の最終節・浦和戦まで残留が決まらず、指揮官も胸中穏やかではなかったはずだ。 12月9日の2024年シーズン総括会見で、彼は偽らざる本音を吐露した。 「終盤はすごく難しかった。(選手も)『俺たちはどこにいるんだろう』という感覚があったと思います。決勝戦と残留争いという状況で、どこに寄りかかったらいいかという不安定感は少なからずあったのかなと。それは私自身も多少はありました。どういうメッセージを選手に伝えて挑んでいくべきか、どう自信を持たせるのかということで、頭がグニャグニャ動いていた印象があります」としみじみと語っていた。 改めて今季リーグ戦の数字に目を向けると、2023年より失点数が大幅に増えている。試合数が34と38という違いはあるが、昨季は36得点40失点、今季は44得点59失点。5月11日のホーム浦和戦の2-4、7月6日のホーム鳥栖戦の3-4、9月27日のアウェー川崎戦の1-5、10月5日のアウェー鹿島戦の0-4と4失点以上が4試合もあり、攻守のベストバランスを見出し切れずに苦しんだという。 「我々の強みだったハイプレスが終盤に落ち気味になった。それまではしっかり奪ってから攻撃権を獲得するというのが強みになっていたんですけど、目線が揃わなくなり、奪いきれないボールを相手にそのままシュートまで持ち込まれ、失点につながる形が多くなった。それはリーグ最下位でした。 そこから選手と話をして、少し戦い方を変える形になった。ハイプレスではなくミドルに構えたことで、選手個々が与えられたゾーンを守りながら入ってきた選手を見るようになって、少し落ち着きました。 ただ、そうなると攻撃の絵も共有しなければいけない。相手が出てきている分、ショートカウンターが有効になる。そういう話を選手としていたものの、うまく得点につながらず、成果が上がらなかった。守備の意識や守り方の整理は少しタイミング的に手遅れだったのかなと思います」と、指揮官はラスト9戦未勝利という結果を大いに反省。シーズン開幕前に掲げた「てっぺんを取る(タイトル獲得)」という高い目標から程遠い結果になったことを真摯に受け止めていた。 それも新潟独特のスタイルを徹底分析され、対策を講じられた結果だ。シーズン中には「このままでいいのか」という迷いを口にする選手もいたという。 それでも松橋監督は「俺は絶対に変えない。変えるくらいだったら辞める」と選手に語気を強めたこともあったと明かす。それだけ強い信念を持って、最後尾から丁寧にボールをつないで、敵を凌駕していくスタイルを押し通そうとしたのである。 「新潟のこのスタイルに長い歴史があるかと言ったら、そうではないかもしれないけど、この3~4年やってきたもの、できたものは周りからもすごく期待されているし、面白さもあると僕は感じている。状況が悪くなって疑念が湧くことはあるでしょうけど、どう良い方向に持っていくかを考えるべきだと思います。 選手に対してロジック的なアプローチもありましたけど、やはりそういう時は心に何かをグッと焚きつけるというか、半ば強引なところも必要かなと。『変えない、貫く、やり通すんだ。我々の強みを捨てることはしない』と感情的に言ったこともあります」 日頃、冷静で物事をニュートラルに捉えられるタイプの指揮官が、内に秘めたパッションや強いこだわりを真正面からぶつけてくれば、選手たちも奮起しないはずがない。それが3年間の大きな前進の原動力だったのかもしれない。