国民雑誌『キング』誕生から100年…日本初の「100万部雑誌」はいかにして生まれたのか?そのウラにいた「宣伝マニア」の存在と「ヒットの秘密」
メガヒットが裾野を広げてくれる
「『キング』の創刊宣伝の話を聞いてみると…………、今でも同じようなことをしているんですね」と明かすのは、『進撃の巨人』の宣伝担当者であるコミック営業部の田幸志朗次長です。 「講談社のコミックの売り方の1つとして作品を群で仕掛けていくことがあります。例えば、コミックブルというスポーツ漫画レーベルの作品群が発売になる時、すべての作品に『ブルーロック』のノベルティを購入者特典としてつけました。強いタイトルを旗印に別のコミックを引き上げてもらうことが狙いで、そういった施策はたびたび行っています。 また現在では、1巻がいきなり売れる作品はなかなかありません。物語が続いて2巻、3巻目で人気に点火し、売れてくるものが多い。『東京リベンジャーズ』が大きく売れるきっかけの1つになったこととして、表紙のデザインを変えた5巻のタイミングがありました。いったん火がついてくれたら、いろいろな仕掛けができる。メガヒットが他の作品の裾野も広げてくれるんです」 ただ、戦前と違い、現在では世界が相手です。カネにあかせた派手な宣伝戦略はとてもできません。田幸次長は続けます。「たぶん、うちは宣伝部の強い外資系メーカーにくらべて宣伝予算は100分の1ぐらいしかないと思います。だからこそ、今は手弁当でアイデア勝負です」 『進撃の巨人』は、商流に乗っている最大サイズの本、というカテゴリーでギネス記録に載りました。 「まもなく連載が終わることもわかっていましたし、何か賞をとらせてあげたかったんです。本に関するカテゴリーがギネスの中にはいくつかあって、“巨人”の話ですから大きさに絡めた話がいいな、と。 調べてみたら、“世の中で売れた一番大きいサイズの本”の記録をブラジルの本が持っていた。『それより1cmでも大きくて100冊以上売れれば記録達成します』とギネスの事務局に教えてもらい、そこで、実際に巨大本を作成できる印刷所を探して手縫いで作ってもらいました。1冊15万円(税込16万5000円)もして、100冊作ったのでドキドキでしたが、結果的には発売2分で完売。もっと作っておけばよかった(笑)」 現代の宣伝は、広告を打つのではなく、拡散してくれる発火点を作ることが大事だといいます。 「まず売ってくださる書店さんを味方につけるのはもちろんですが、誰しもがスマホを手に持ち写真を撮れる今、“写真を撮りたくなるもの”という宣伝手法も重要なんです。写真に撮ったら拡散してくれるでしょう? そしてファンが写真に撮って面白がっている、コアなファンが熱狂している、その熱狂ぶりを一般の人やウェブメディアが、“こういうのが話題になっているよ”と報じてくれる。そうやって話題が次々に伝播して、作品に興味を持ってもらえるんです」 創業時から始まった大宣伝作戦は、時代を超えて、手法を変えて現代につながっています。2024年いっぱい、日本の玄関口である成田空港の入国審査場前には、講談社コミックの人気キャラクターを使って日本のマナーを紹介する「巨大ウェルカムウォール」が出現しています。 世界から来る観光客にKODANSHAって何だ? なんか面白そうだぞ? と思ってもらえているでしょうか? 【さらに読む】『なぜ愉快のルビは「ユクワイ」なのか…100年前、出版社の校閲部員が大激論していた「字音仮名遣い」と「痛恨のミス」』
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