「減税先延ばしと追加利上げ」国民生活を追い込んでばかり 政府・日銀、何のために政策決定をしているのだろうか
【森永康平の経済闘論】 厚生労働省が公表した10月の毎月勤労統計調査によると、物価の変動を反映した実質賃金の季節調整済指数(速報値)は前年同月比で横ばいとなり、3カ月ぶりにマイナス圏を脱した。 【表でみる】控除額を178万円に引き上げた場合の年収別減税額 実質賃金は2022年4月から26カ月連続でマイナスを記録していた。 24年6月、7月分の2カ月はプラスの伸びを記録していたものの、ボーナスなどの「特別に支払われた給与」の上振れによるところが大きく、所定内給与だけで計算すればその2カ月も実質賃金はマイナス圏であり、8月、9月分は再びマイナス圏に沈んでいた。ようやくマイナス圏を脱したことはポジティブなニュースではあるものの、依然として消費者が足元の物価高によって苦しい生活を余儀なくされていることには変わりはない。 それでは国民生活を救うような経済政策は実施されるのだろうか。先の衆院選において自公が大敗したことでキャスチングボートを握ることとなった国民民主党はガソリン減税を主張してきたが、政府与党はガソリン減税を含めた自動車関連税制の改正について1年先送りする方針を決めた。 また、政府は11月22日に閣議決定した総合経済対策で年内で終了予定だったガソリン補助金を来年も延長することを決定した。だが、補助金は段階的に縮小されることも決まっており、消費者からすれば徐々にガソリン価格が上昇していくため補助金の延長というよりは、体感ベースでは補助金が縮小されるような印象を受けるだろう。 ガソリン価格ひとつとっても国民生活を救うような政策どころか、追い込むような意思決定ばかりがなされている。補助金が縮小されることによって、年明け以降、消費者物価指数の上昇圧力が発生する。 また、冒頭に述べた実質賃金も、23年1月を底に伸び率のマイナス幅が縮小し続けていることを都合よく解釈すれば、日銀は再び高まる可能性がある物価上昇率と上昇傾向にある実質賃金という2つの要因に基づいて12月、または年明け1月に追加利上げを実施しかねない。 そうなれば、住宅ローンを始めとして借り入れをしている家計の返済負担は高まることとなり、また、中小零細企業も返済負担が高まるだけでなく、新規の借り入れを躊躇(ちゅうちょ)し、従来であれば行われるはずだった投資も控えられることとなろう。