あまりに深刻な人手不足ニッポンの「厳しい現実」…サービスがどんどん消えていく実態
なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、高齢者も女性もみんな働く時代に……話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 【写真】日本には人が全然足りない…データが示す衝撃の実態 (*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
予想8 優先順位の低いサービスの消失
将来の日本経済において、物価は持続的に上昇していくことになると予想することができる。しかし、物価が上昇するということは、消費者にとって決して好ましいことではない。物価上昇とはすなわち同じ商品やサービスであっても、これまでよりも高い値段で消費者は商品を購入せざるを得なくなるということであるからだ。 これまで多くの日本企業では労働力を大量に利用して人海戦術で懇切丁寧なサービスを提供してきた。そして、消費者はその恩恵に存分に浴してきた。 しかし、今後、人手不足が深刻化していけば、これまでのようなサービス提供の仕方は難しくなっていくだろう。これからの経済においては、現在提供されているサービスに優先順位をつけたうえで、優先順位が低いものについては消費者があきらめざるを得なくなるというプロセスをたどることになるのである。 たとえば、運輸業に焦点を当てれば、現代日本においては、消費者の住居一戸一戸に最短日程で荷物が届く高水準のサービスが行き届いている。それだけではなく、利用者の都合によって不在であったとしても、無料で何回も再配達を行ってくれる。 諸外国で行われているサービスと比較したとき、日本社会がここまでに質の高いサービスを安価に提供できる体制を整えているということは驚くべきことだ。そして、その陰には絶え間ない企業努力と多数の労働者の献身がある。しかし、こうした多数の労働者によって提供されているきめ細やかなサービスについては、これからの時代においては、人件費コストの上昇に見合わなくなっていくだろう。 そうなれば、このようなサービスについて、これからは標準的なサービスとしての提供は消失していくと予想される。そして相応の価格転嫁をされたうえで、別の高付加価値サービスとして提供されることになるだろう。 住宅非密集地であれば、標準的なサービスにおいては個人宅までの配達自体がなくなり、地域に置かれた集配所に各々が取りに行く形にかわるかもしれない。あるいは飲食店において従業員が丁寧に席まで案内し、おしぼりや箸、お茶を一人ひとりに提供する光景や、小売店のレジで従業員が一人ひとりのために商品を袋詰めする光景は、将来の日本経済においては過去のものになっているだろう。 これは実質的にはサービスの質の低下につながるものである。ただ、統計上の問題として、このような隠れた高い質のサービスはこれまでうまく物価指数やGDPに計上されていなかった可能性が高い。そうなれば、これからはいわゆるステルスでのサービス水準の低下が日本経済全体で広がっていくと考えることができる。 多くの業種や職種においてAIやロボットが人の仕事のすべてを代替することは不可能である。これからは企業における生産性上昇の努力が行われながらも、緩やかにサービス水準の質や量が低下していく展開になる可能性が高い。 しかし、人手不足で商品の配達自体が行われなくなるとか、介護サービスが全く提供されなくなってしまうとか、そういった悲劇的な事態までにはならない。あくまで市場メカニズムは、現在行われているサービスに優先順位をつけたうえで、重要なサービスとそうでないサービスに振り分け、消費者が本質的に必要としているサービスを絞り込んでいくことになるのである。 つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)