〈総選挙 私はこう見る〉「選ぶべき候補者/政党がない、というタワゴト」 白井 聡
全国紙が「与党300議席を超える勢い」という選挙予測を報じ、自公圧勝という勢いが伝えられている。また、多くの有権者がどこに投票するかを決めかねている一方で、投票率は下がるとも予想されている。この状況について、「選ぶべき候補者や政党がないとして棄権する余裕はないはずだ」と指摘するのは、政治思想家の白井聡・文化学園大学助教だ。白井氏に聞いた。 --------------- 「与党300議席を超える勢い」──公示二日後の各紙の一面でこんな言葉が躍っている。こうした数字についての大々的な報道が、いとうせいこう氏が言うような、人々が「ある種の「政治不信というキャンペーン」によって「無力」さを刷り込まれ」(※1)るために行なわれているのか、それとも全く何の確たる意図なしに行なわれているのか、私にはわからない。いずれにせよ予測されるのは、投票率が戦後最低となった前回(2012年、59.32%)を下回るであろうことだ。そして、投票率が下がるほど、組織票を握る与党陣営は有利になる。 メディア上で頻繁に語られる低投票率の理由のもっともらしい説明はいくつもある。いわく、「大義なき解散」、「争点なき総選挙」。どちらの理由づけも本質的に間違っているのだが、現在の国民の気分を何となくそれなりに反映していることも確かだ。 上記二つの理由づけは、おおよそ次のような事情によって説明可能である。まず、解散以前の衆参両院で与党は安定多数を握っている。かつ、安倍首相は「消費増税の延期の決断について国民の信を問う」ことを大義名分としたが、そもそも消費増税の実行については景気条項が存在し、今回の延期の決断はこの条項に従って下されたにすぎない。つまり、首相の言う「争点」は、およそ争点の態をなしていない。
しかも、消費増税そのものは、安倍政権が決めたものではなく、菅・野田民主党政権が決めた事項である。この点で、安倍政権は実に巧妙であると言える。なぜなら、安倍総理の言う「解散の大義」のレトリックに乗ってしまう限り、民主党は対抗不能であるからだ。さらに、同様の構造は、特定秘密保護法や、TPP参加、対中関係の緊張、さらには原発再稼働の問題にさえも当てはまる。少々記憶を呼び起こしてみるだけでよい。これらの重要な事柄はすべて、民主党政権当時に発生した問題であったり、着手された政策にほかならないのだ。ゆえに、民主党は、消費増税問題に代る決定的争点としてこれらの問題を取り上げることもできない。 こうして選挙からは「争点が消える」。その効果は絶大である。選挙は、事実上安倍政治に対する信任投票と化し、安倍政権の政治はトータルに是認されたという外観が出来上がる。この選挙で大勝を収めれば、安倍総理は「信任された」と宣言し、長期政権を目指すことになるだろう。かつそれは、前回の総選挙の実績から類推して、全有権者のせいぜい20%程度の得票によって達成されうる(※2)のである。投票率が前回選挙を下回れば、その数字はさらに下降する。全有権者の5人に1人にも満たない人々の支持が、彼らにフリーハンドを得たという自己認識を与えることになる。