周央サンゴは『スペイン村』を、『パリピ孔明』はクリエイター業界を、VRChatコミュニティは日産自動車を盛り立てる
今週も、VTuber業界の大きなニュースからの幕開けとなった。バーチャルシンガー・花譜の3rdワンマンライブ『不可解参(狂)』が、日本武道館にて開催決定というニュースだ。第一報は5月15日の深夜のライブ放送にて、渋谷に出稿された街頭広告を映すというサプライズで発表された。 【写真】メタバースで行われた新型の“軽EV”『日産サクラ』発表会 バーチャルアーティストの日本武道館公演は非常に事例が少なく、まさに快挙といえる一報だ。頭一つ抜けた歌唱力とアーティスト性を誇る一人の少女が、武道館でどのような「事件」を生み出すか注目だ。 その同日、「人がいないことが取り柄」としばしば語られる三重県志摩市の複合リゾート施設『志摩スペイン村』に、かなり大きな「バズ」が起きた。きっかけとなったのは、「にじさんじ」所属の周央サンゴ。可憐な見た目からは想像もつかないほど多弁で饒舌なVTuberであり、そして『志摩スペイン村』のファンである。 「アトラクションで1分も並ばない」「人と交通の便だけが全く足りていない」などの毒舌も交えながら、『志摩スペイン村』の魅力を熱弁した彼女の配信は、5月16日にぴぴ氏によって切り抜き動画が作成され、これがTwitterでトレンド入りを果たし、流れを見た『志摩スペイン村』は急遽ホテルに「シングルユースプラン」を設けた。SNS時代ならではのスピーディーな展開である。 優れたプレゼン能力を持つVTuberによる「バズ」の発生は、皇牙サキによる『薩摩義士伝』語りなど、2018年の黎明期からしばしば見られる事象だ。そして、配信主体のVTuberが増えた現在、その魅力を濃縮して伝える「切り抜き動画」は重要な役割を果たす。周央サンゴによる『志摩スペイン村』のトレンド入りは、インフルエンサーとして進化を果たしたVTuberの特性が、存分に発揮された事例と言えるだろう。 VTuberの隆盛に合わせて、アニメやゲームなどでもしばしば「VTuber的」なキャラクター運用が行われる事例が増えた。その最新の事例が『パリピ孔明』と言える。4月からの放映直後から、ヒロイン・月見英子の3Dモデルを「3D Virtual 英子」と称し、次回予告動画に出演。そして5月17日には、OPテーマ『チキチキバンバン』を踊らせる動画を投稿し、合わせてモーションデータを期間限定で無料配布を始めた。 モーションデータの撮影は、バーチャルアーティスト「まりなす」などを運営するバーチャル・エイベックス株式会社が担当している。少なからず、同社のバーチャルタレント運用のノウハウが活きているだろう。さっそく、FBX形式で配布されたモーションデータを『VRChat』などで活用するユーザーも現れ始めている。「モーションデータを活用できる人」の存在を前提とした施策が、どのような効果を発揮するかは興味深いところだ。 国内企業において、メタバースを最も効果的に活用している企業の一つと言えば、日産自動車がまず挙げられる。銀座のギャラリー「NISSAN CROSSING」を『VRChat』上に建設し、SDGsに絡めた環境ツアーを実施、さらに「ハンドルぐるぐる体操」のプロモーションを行うなど、『VRChat』を軸に多くの活動を実施してきた。 そんな日産自動車が5月20日、史上初となる「メタバース上での新車お披露目会」を実施した。14時に現実の会場で新型軽電気自動車『日産サクラ』を発表した後、20時に「VRChat」上にて実施されたお披露目会は、光のエフェクトや空間操作などで演出を行う「パーティクルライブ」を交えた新車発表と、『日産サクラ』に試乗できる新作ワールド体験の二本立て。目と耳で楽しみ、さらに乗って楽しめる、VRメタバースのもたらす力をすべて注ぎこんだようなイベントとなった。 イベントそのものも、事前にプレスリリースを打ちつつ、メイン会場とは別にパブリックビューイング会場を用意し、さらに公式チャンネルも含めて全5つのYouTubeチャンネルにて配信を行うなど、これまでの日産のメタバース事業でも最大規模のイベントとなった。 そして、『VRChat』コミュニティのクリエイターやインフルエンサーと協働で作り上げる姿勢は健在であり、ワールド制作、パフォーマンス、配信支援など、多岐に渡る領域でコミュニティの人々が参加した。コミュニティと企業が共に作り上げる「メタバースの未来」は、たしかにそこにあった。 インフルエンサーと企業の距離、あるいはコミュニティと企業の距離が縮まることで生まれる価値は多い。それは、バーチャルな世界でもまた同様なのだと感じさせる出来事が、いくつか見られた一週間だった。
浅田カズラ