春高無念の"不戦敗"以来、4年ぶりの東京体育館 天理大・楠本岳、最後はずっと対戦してみたかった相手と駆け引きを楽しんだ
大学生活最後の全日本インカレ。関西春季リーグを制し、西日本インカレでは34年ぶりとなる頂点をつかんだ。秋季リーグは近畿大学に次ぐ2位だったが、今季の天理大学は西日本を代表する存在として、決して大げさではなく優勝候補の一角として注目を集めていた。ただ、主将の楠本岳(4年、東山)は最後まで勝負を、そして目の前の相手との駆け引きを楽しんでいた。 【写真】春高で不戦敗となって以来、4年ぶりに東京体育館でプレーする楠本岳
早稲田とは「ずっと対戦してみたかった」
会心の1本は、第2セットの中盤だった。 大学に入ってから「ずっと対戦してみたかった」という早稲田大学との準々決勝。第1セットは22-25で早稲田が先取し、第2セットも13-16と先行された。これまでならば「決まった」と思う攻撃も、早稲田の堅いディフェンスに阻まれ、なかなか決まらない。序盤にブロック失点が続いたこともあり、攻撃に迷いが生じる選手もいる中、楠本はむしろ「打っても簡単に決まらない」状況を楽しんでいた。 オポジットの酒井秀輔(4年、広島工大高)の攻撃で追い上げ、16-18。前衛に上がった楠本はネットを挟み、早稲田のオポジット畑虎太郎(3年、福井工大福井)と対峙(たいじ)した。高校時代から互いを知る相手で、楠本の得意な攻撃も知っている。少しでも決めやすくなるようにと、天理大のセッター・田岡悠瑠(2年、坂出工業)はミドルブロッカーのBクイックと見せかけて、レフトの楠本へ速いトスを託した。 ミドルにも1枚ブロックがついていたので、楠本と畑、スパイカーとブロッカーによる1対1の勝負で、楠本は畑がストレート側を警戒しているのが見えたため、クロスへ打とうとモーションを変えると、畑もその動きを見逃さずクロス側に寄った。そして、楠本はそこまですべてを見た上で、ストレートに打つ。後ろにレシーバーも入っていなかったため、鮮やかにライン際にスパイクが決まった。 楠本がその1本を「会心」と挙げた理由は、ただ決まったというだけではない。 「駆け引きしながら勝負するのが、ものすごく楽しかったんです。関西もレベルは高いですけど、ディフェンスのレベルはやっぱり関東。早稲田大はさらに1枚も2枚も上。抜けたコースにもレシーバーがいるから、みんな『決まった』と思っても拾われて、次のプレーに準備ができないままラリーが続いて得点できない。やっぱりすごいな、と思ったし、だからこそ1本決めるのにも駆け引きが必要で、高いレベルの駆け引きができることが何より楽しかったです」 追い上げながらも第2セットを20-25で落とし、第3セットは15-25。セットカウント0-3で敗れ、楠本の全日本インカレは閉幕した。 「ずっとやりたいと思っていた早稲田と当たれたこともうれしいし、最後、負けるなら他のチームに負けるよりも早稲田に負けてよかった、って思います」 最後まで、笑顔を絶やすことはなかった。