役者・菊池風磨の魅力は綿密に作り上げられた“人物像”にあり 『バベル九朔』でさらなる挑戦へ
「してやられた」「そうきたか」。これまで何度、菊池風磨に唸らされたことだろう。パフォーマンス、ライブ演出、そして芝居。負けず嫌いで知られる菊池は、観る者の期待を上回ることに懸けている。そして、着実に成し遂げる。いつだって彼には、一枚も二枚も上手をとられてしまう。菊池のハングリー精神は、デビュー10年目を迎えようとしている今なお、まるで錆び付く気配がない。 本稿では、現在、日テレシンドラ枠『バベル九朔』で主演を務めている“役者”菊池風磨の魅力を分析してみたい。 菊池は、2008年『スクラップ・ティーチャー~教師再生~』(日本テレビ系)にてドラマ初出演。2013年『仮面ティーチャー』(日本テレビ系)、2012年『未来日記-ANOTHER:WORLD-』(フジテレビ系)などを経て、2014年『GTO』(関西テレビ・フジテレビ系)に出演したころから、主体的に役と向き合う姿勢が見え始めたように思う。役者としての魅力が芽生えた時期ともいえる。 2015年『アルジャーノンに花束を』(TBS系)では、ぼさぼさ頭に瓶底メガネという冴えない姿で、小久保一茂役を好演した。内気かつ辛辣で、対人交流が苦手な小久保だが、無垢なアルジャーノンには心を許し、彼と心を通わせることで次第に変化していく。小久保は、ときに笑ってしまうほどの変わり者ながら、どこか憎めないキャラクターだった。 それは、菊池が彼に命を吹き込み、温度を与えたからだ。唯一の友達・アルジャーノンのために走り、彼を想って泣く姿。恋心の芽生え。主人公・咲人(山下智久)との交流。小久保が登場するシーンは、深刻さと切なさを増してゆくストーリーにおいて、心あたたまるものだった。
役者・菊池風磨を語るにあたって、2016年『時をかける少女』(日本テレビ系)で演じた深町翔平(ケン・ソゴル)役を避けては通れない。先述した『スクラップ・ティーチャー』以来、約8年ぶりに出演した日テレ土9枠。「成長した姿を見せたい」(※同作放送決定時に寄せた公式コメントより)と菊池自身、意欲的な姿勢を見せていた作品だ。 菊池は本作出演にあたり、高校生特有の「線の細さ」を出すべく、クランクインの2カ月前から食事制限やトレーニングを実施。自身の高校時代と同じ58Kgまで身体を絞って撮影に臨んだ(参照:『ザ・テレビジョンZoom』vol.25、『TV fan CROSS』vol.19)。 幼なじみ特有の自然な空気感を作るべく、主演の黒島結菜、共演の竹内涼真とは、敬語を使わない約束を交わしたという。3人のシーンでは初日からアドリブを入れ、等身大の演技を見せた。 “青春フェチ”を公言する菊池が表現した、青春と恋、そして夏。それはあまりにも眩しくほろ苦く、パッと咲いて消える花火のように美しかった。最終話、高畑淳子演じる仮の母との最後の食卓で見せた涙も印象的だ。本筋である「恋」だけでなく、翔平を構成するすべての要素を、菊池は丁寧に演じていた。 放送から約4年が経った今なお、ふと思い出しては切なくなる物語。どうやら翔平は、夏も恋も、私たちの心も、持って行ってしまったみたいだ。 菊池はとてもクレバーな人間だと常々感じる。芝居に対してもそうで、与えられた役を理解、咀嚼し、あらかじめ綿密な「人物像」を作り上げる。それこそ、体型や髪型、声のトーンといった外見的な要素から、癖や思考回路などの内面的な要素に至るまで、実に細かく思い描いていることが、作品インタビューからうかがえる。 そうして、自身のなかに抱いたそれを「実写化」するように演じる役者だ。一作ごとにそれらの作業と準備を経て、その身をすり減らすように役と向き合い、演じ切る。表には、なんでもないような顔しか見せずに。菊池風磨とは、そういう男なのだ。 おおよそ年1本はドラマ作品に出演し、主演も経験しているが、一般視聴者層には役者としてよりも、バラエティ派のイメージが根付いているきらいがある。 2017年『嘘の戦争』(関西テレビ・フジテレビ系)以降、ゴールデンプライム帯ドラマへの出演がないのも理由のひとつだろう。しかし彼が向かい合ってきた1本1本、すべてが菊池の代表作といえるし、すべてにおいて彼は新しい一面を見せ、印象を残してきた。