プロ野球トライアウトで本当に獲得の是非が決まるのか?
球団首脳のダブルチェックと故障確認
それでは、なぜトライアウトが必要なのか。やはり単なる儀式で、ここでの結果、内容で獲得の是非が決まるわけではないのか。 横浜DeNAの元GMだった高田繁氏に「ある程度、調査は上がってきていても編成のトップが直接見て確認しておきたいということがある。また各球団共に支配下登録枠の問題があって、欲しくても獲れない、逆にドラフトの結果を踏まえて、どうしても補強しておきたい部分が出てきた、というような事情もあるからね」という話を聞いたことがある。 トライアウトが必要な理由のひとつにダブルチェックがある。戦力外選手のスカウティングレポートがあり、その力を把握していても、編成の責任者や、担当外の編成が、直接トライアウトでプレーを見て評価が変わるというケースもある。 またトライアウト前に獲得が内定している選手に対しても 「トライアウトに参加して編成トップにプレーを見せて欲しい」と打診しておくケースもある。 編成担当を一人だけポツンと派遣するチームから、編成のトップからフロントの首脳陣が勢ぞろいでネット裏を埋めるチームまで様々だが、基本的に、その人数はその球団の獲得意欲と比例する。ドラフトの結果と、FA選手の流出の可能性などを見極めて、緊急補強しなければならないポジションが生まれているチームは、本気でダブルチェック体制を組んでトライアウトに臨む。ただ、昨年のトライアウトで、阪神は、前編成責任者が早々と立ち去っていたにもかかわらず、山崎を獲得した例もあり、人数だけで一概には判断できないのではあるが……。 もうひとつのトライアウト視察の狙いが、故障の回復具合などのコンディションの最新チェックだ。実績はあるが、故障の影響などで、2軍でも、そう多く試合に出場していない選手の場合、近況がよくわからないケースがある。それは選手側がトライアウトでアピールしたい部分でもある。 昨年、マツダスタジアムで行われたトライアウトに参加、結局、クリケットに異例の転身をはかった元西武、広島の木村昇吾氏も、「ひざが大丈夫なところを見せたかった」という話をしていた。 トライアウトは「あの選手は故障が問題でしょ」という編成に対して、選手は完治をアピールする場でもあり、真剣に獲得を検討しているチームは、その故障度をチェックする場でもあるのである。 たとえ合格率が「65分の3」「51分の3」と低くとも、各球団の編成が足を運ぶ理由がそこにあり、選手側もその狭き門に挑む理由がそこにある。 「ユニホームへのけじめ」の気持ちをこめて、自身への引退セレモニーとして、トライアウトに参加する選手も少なくない一方で、選手と球団が共に真剣勝負を挑む場なのだ。