貧困層の季節労働者として実際に働いて撮影 米演技派女優が撮影後に得たもの
貧困問題についての報道を目にする機会が増え、コロナ禍における自身の将来について考えた方も多いでしょう。金銭とは必要不可欠なものですが、それがすべてはないと思う気持ちも。米アカデミー賞の有力候補とされる『ノマドランド』は、米国で車上生活を続ける高齢労働者たちをテーマにした作品です。暗い内容を想起しますが、観賞後はどこかに光も見えるような。それは一体なぜか? 主演した米女優フランシス・マクドーマンドの存在によるもの大きいと考える映画ジャーナリストの関口裕子さんに、本作を解説していただきました。 【写真】米国の“放浪する高齢労働者”たちが出演 映画『ノマドランド』に描かれたそのリアルな生活 場面スチル3枚 ◇ ◇ ◇
輝かしい経歴を持ちながらシュールな視点を失わない演技派俳優
このご時世、在宅勤務の方も多いと思う。オフィスで仕事をしていた頃、毎日のように訪問販売の飲料を飲んでいたが、皆がリモートになった今、あの販売員さんはどうしているのだろう。もちろん、自分自身の行く末だってままならない。いつかはウイルスも沈静化するだろうが、老いていく中、生きる術と活力は継続するだろうか? そんな不安を反すうし、思考がマイナスになっていた時に観た『ノマドランド』はまさにその現実を捉えた映画だったが、驚くことに観終えた時には少し気持ちがプラスへと転じていた。たぶんそこには、主演を務めたフランシス・マクドーマンドという人物の在り方が大きく貢献しているのだと思う。 フランシス・マクドーマンドは、コーエン兄弟の『ファーゴ』(1996)、マーティン・マクドナー監督の『スリー・ビルボード』(2017)でアカデミー賞主演女優賞を2度受賞している演技派だ。また、演劇では「グッド・ピープル」(2011)でトニー賞演劇部門主演女優賞、ドラマでは「オリーヴ・キタリッジ」(2014)でプライムタイムエミー賞主演女優賞 (リミテッドシリーズ・テレビ映画部門)を受賞し、映画と舞台、テレビの最高賞をすべて受賞する偉業を達成している。 そんな輝かしい経歴のマクドーマンドだが、彼女自身は授賞式など晴れの場に出るのが大の苦手。夫のジョエル・コーエンと兄のイーサン・コーエン(コーエン兄弟)がアカデミー賞授賞式の演出を頼まれた時には「ぜひコニーアイランドでやるべきだ!」と主張したとか。大衆的な遊園地のあるコニーアイランドでなら、人々がどんなにきらびやかに着飾っても“見世物”という位置づけで理解できるからだという。シュールだ。