モータースポーツは危険です──【連載】F1グランプリを読む
モータージャーナリストの赤井邦彦はバーレーンGPで起こったロマン・グロージャンの事故に、F1の安全性を考える。 【写真を見る】バーレン・インターナショナル・サーキットのパドックに姿を現れたグロージャン
脱出を3度試みた
F1グランプリを初めとするモータースポーツを取材するメディアには取材証(メディアパス)が配られるのだが、その取材証には必ず「Motorsport Is Dangerous(モータースポーツは危険です)」という文言が記されている。実際、モータースポーツには危険が詰まっている。先日のバーレーンGPでロマン・グロージャンのハースF1がガードレールに激突して出火、激しく燃えさかる様を見て改めてモータースポーツの危険を意識した。1960年代~70年代のレースでは事故が起こると大きな惨事になることが多かった。レースカーの安全性が低いために火災が頻繁に起こり、マーシャル達も事故への対応が稚拙だったため、結果的に多くのドライバーが命を落とすことが多かった。バーレーンGPでのグロージャンの事故を見て、当時を思い出した。咄嗟にグロージャンの命を心配した。なぜなら彼のクルマのコクピットから前部はガードレールに食い込み、ボディは真っ二つに引き千切られ、燃料タンクは破裂し、満タンの燃料が爆発するように火を噴いたからだ。 しかし、グロージャンはその火焔の中から脱出してきた。奇跡としか言いようがないが、多くの関係者の安全を求める長い戦いの成果と、いくつもの幸運が重なったおかげで命拾いをした。まず、コクピットを守るHalo(ヘイロ)というセイフティバーが、ガードレールからグロージャンを守った。Haloがなければガードレールがグロージャンのヘルメットを直撃していたはずだ。燃えさかるクルマから脱出出来たのもHaloが作った僅かな隙間があったからだ。しかし、グロージャンを助けたのは彼自身の生への執念だ。彼は脱出を3度試みて3度目に成功した。途中で彼の気持ちが折れていたら違う結果が待っていた。まず、グロージャンの生きようとしたエネルギーを讃えたい。 今年から耐火指数が高くなったレーシングスーツもグロージャンを助けた。彼が火焔の中にいた時間は28秒。耐火スーツは30秒までドライバーを守るように作られていた。ヘルメットも彼の頭部を守った。彼は両手の甲と踵の火傷だけで事なきを得た。ドライバーの安全を守るために、FIAや関係機関が何10年もの時間をかけて積み重ねて来た努力の結果といえる。