台湾茶のプロ・黄浩然氏と楽しむ台湾茶|「竹里館」(台北)
文・写真/市川美奈子(海外書き人クラブ/台湾在住ライター) 台北市内の路地裏に「竹里館」という茶芸館がある。1996年に開業した、台北を代表する茶芸館のひとつだ。オーナーの黄浩然氏が厳選したお茶と、お茶に合う料理を提供している。店内にほのかに漂うお茶の香りと落ち着いた調度品は、ここが台北市の街中であることを忘れさせてくれる。 写真はこちらから→台湾茶のプロ・黄浩然氏と楽しむ台湾茶|「竹里館」(台北) ここ「竹里館」のオーナー黄浩然氏は、台湾茶芸界の重鎮だ。だが意外なことに、若い時は塗装工として生計を立てていたという。塗装に使う粉塵の影響で体を悪くし、茶の道に入ったのは36歳のとき。以来、台湾茶の研究と魅力発信に心血を注ぎ、アンティークな店構えの「竹里館」や、現代テイストの「三口半茶館」を台北市内で経営している。 茶の道25年以上の黄氏に、台湾茶の種類や楽しみ方を教えてもらった。 そもそも「台湾茶」とは何か。「台湾茶」とは台湾で生産された茶葉を発酵・製造したお茶を指す。 台湾茶のもともとのルーツは中国茶だ。1796年、烏龍茶産地として有名な中国・福建省の武夷山(ウーイーシャン)から、茶の苗木が台湾北部に入植されたことが台湾茶の始まりだといわれている。 その後、福建省の指導者により中国式の製茶方法が伝わり、台湾中部の南投県にも福建省茶が植樹された。 ただし台湾と福建省では、環境・気候・茶葉の成長過程などはおのずと異なってくる。次第に、台湾の気候に合った独自の製法や加工方法が生み出され、福建省とは異なる茶葉が誕生した。東方美人茶や文山包種茶等が有名だ。1980年代以降は、標高1000m以上の高地で作られた「高山烏龍茶」が一大ブームを巻き起こした。 「『高山烏龍茶』というのは総称で、特定の産地や品種を指すものではないんです。標高1000mを越える場所で作られた烏龍茶はすべて『高山烏龍茶』です」と、黄氏が解説してくれた。実は高山烏龍茶は産地によって細かく分類されている。なかでも有名なのが「阿里山(アーリーシャン)」、「杉林渓(シャンリンシー)」、「梨山(リーシャン)」、「大禹嶺(ダーユーリン)」などの産地だ。最も高い茶産地の標高は2600mにもなる。標高が高くなるほど、味・香り、そして値段も高くなるという。 今回、黄氏が試飲させてくれたのは2019年産の「杉林渓高山烏龍茶」。自身が栽培・摘採方法を指導した農家の茶葉のみを使い、自ら「烘培(ホンペイ)」した逸品だという。 「烘培(ホンペイ)」は烏龍茶に欠かせない工程で、いわゆる「焙煎」のこと。日本の煎茶の場合、「烘培」に相当する熱処理は20~30分間で完了するのが一般的だが、烏龍茶の場合、6時間~10時間という長い時間をかけて焙煎することがある。火を入れることによって茶葉の雑味が取り除かれ、茶葉が持つ花や果実の香りが引き出される。「烘培」は、火の強弱や時間、その日の気温や湿度、そして葉の含有水分量などの様々な要素を考慮しながら行わなければならない。まさに職人の腕の見せ所だ。 台湾茶を味わうための道具を、黄氏に解説してもらった。 「まずは急須。急須に茶葉を入れてお湯を注ぎます。そして茶海。急須で淹れたお茶の濃さを均一にするために、急須から茶海に移し替えます。急須から、最後の一滴まで残さず茶海に注いだら、茶海から茶杯に注ぎます」 茶葉の分量を正確に測るため、茶匙もあるのが望ましい。茶葉とお湯の黄金比率は1:50だそうだ。つまり茶葉が3gなら、お湯の量は150mlが目安になる。ただし好みに応じてお湯の量を増やしたり減らしたりしても差し支えない。 お湯の温度はどうか。球状の茶葉なら95~100度、棒状の茶葉なら85~95度のお湯が最適だそうだ。今回の「杉林渓高山烏龍茶」は球状なので、沸騰したお湯を勢いよく急須に注ぐ。そして5秒待つ。「昔はお茶についたほこりを落とすために、このお茶は捨てていました。今は衛生環境が良くなったので、このお茶も飲めますよ」と黄氏に勧められた。1煎目は茶葉の香りがふわっと漂い、非常に軽い口当たり。さわやかな風味が口の中に広がった。 2煎目はお湯を注いで30秒待つ。味が最もしっかり出るのが2煎目だ。 その後お湯を継ぎ足すごとに、蒸らす時間を30秒ずつ延長していく。煎を重ねるごとに茶葉が開いていく。味や香り、そして茶葉の形状の変化を楽しみながら、5煎目までおいしくいただいた。 台湾茶は、難しい飲み物ではない。自分で淹れても十分おいしく飲むことができる。ただし、非常に奥が深い。プロのひと手間によって、台湾茶はより一層味わい深いものになる。 本格的に台湾茶を楽しみたければ、台湾の茶芸館へ足を運んでみてはどうだろう。台北市内の「竹里館」や「三口半茶館」では、上質な雰囲気に包まれた空間でさまざまな台湾茶を楽しむことができる。 そんな気軽に海外へは行けない……という方は、京都での台湾茶体験はいかがだろうか。台湾茶に魅了された若き研究者が、研究に勤しむ傍ら、京都の禅寺で台湾茶教室を開催している(予約制)。 まずは日本国内で台湾茶の魅力に触れ、そして本場台湾でさらなるお茶の世界を知る。そんな旅もおすすめだ。 竹里館 台北茶芸館 台北市松山区民生東路三段113巷6弄15号 MRT中山国中駅から徒歩約5分 営業時間:11:00~20:30 三口半茶館 台北市大安区大安路一段116巷10号 MRT忠孝復興駅から徒歩約4分 営業時間:12:00~20:00、日・月曜日定休 文・写真/市川美奈子 (台湾在住ライター) 民間企業、外務省外郭団体などの勤務を経て、2023年4月から行政機関の職員として台湾に駐在。早稲田大学第一文学部卒。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」の会員。実家は静岡の専業茶農家で、物心ついた頃からお茶に慣れ親しんでいる。台湾ではさまざまな高山烏龍茶を愛飲している。
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