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映画館で待ってます 第2回 劇場のコロナ対策最前線:東京・ユーロスペース編

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映画ナタリー

新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が全面解除されてから、約1カ月が過ぎた。段階的な外出自粛の緩和とともに、最後まで宣言の対象だった東京など5都道県でも日常が取り戻されつつある。シネマコンプレックスやミニシアターも続々と営業を再開し、映画ファンたちはスクリーンで鑑賞する喜びを噛みしめた。一方で、なかなか客足が戻らないのが現状だ。 【写真】KINOHAUS外観。ユーロスペースでは6月20日から「はちどり」が上映中。(メディアギャラリー他9件) 映画ナタリーでは、さまざまな劇場で今行われている感染対策の実態をレポート。今回は6月1日に再オープンした東京・ユーロスペースを取材し、感染予防の取り組みや、現場のリアルな声をイラストとともにお届けする。 イラスト / 松崎りえこ 取材・文・撮影 / 金須晶子 ■ 見慣れたロビーも“新しい生活様式”に 渋谷・円山町に立地するビル、KINOHAUS(キノハウス)。その3階にあるユーロスペースは、国内外のアート系およびインディーズ映画を発信して渋谷の映画文化を支えてきたミニシアターだ。 エレベーターからロビーに降り立つと、一見いつもと変わらない光景が目に入る。しかしチケット売り場には飛沫感染防止用の透明ビニールシートが吊るされており、脇には消毒液を設置。ビニール越しに対面するマスク姿の係員に「新しい生活様式」を痛感するが、チケットや金銭の受け渡しもトレイ上で行われ、来場者を不安にさせない対策が徹底されている。 ミニシアターと言うと「狭い」=「密閉空間」のような印象を抱く人もいるかもしれない。だがシネコンと同じく興行場法の認可のもと営業され、空気の入れ替えも法律に従った対応となっている(参照:映画館の新型コロナウイルス感染予防対策、全興連の副会長が“3密”軸に説明)。ユーロスペースでは各回上映前に非常扉を開放して約30分間の換気を実施。換気機材は新調したばかりでより性能がよくなったという。 ■ 長期休館中も回し続けた映写機 シアターの中ものぞいてみよう。入場時には、係員が来場者1人ひとりを検温していく。チケットはもぎらず、目視のみで確認。座席は前後左右1席ずつ空けて販売されるため、観客同士が接近することなく映画に没頭できる。ちなみにオンライン予約の画面では、空席・予約済み席・使用不可の席とそれぞれ異なる色に変更したそうだ。ささやかな工夫だが、利用者のことがよく考えられている。 臨時休館中、映写技師は何をして過ごしていたのか? 意外にも「映画を上映し続けていた」という答えが返ってきた。通常、ユーロスペースは年に1度、元日にしか休まない。それでも1日休むだけで機材の調子が悪くなることがあるという。それなのに約1カ月間も休んでしまったら、果たしてどうなるのか。未曾有の事態に直面し、コミュニティシネマに属する映画館には、アテネ・フランセ文化センターの堀三郎から、システムや劇場設備に関する諸注意が一斉にアナウンスされた。ユーロスペースもそれにならい、1日おきに映写機を動かしながら営業再開を待ち続けた。 なおKINOHAUS内には、映画美学校やユーロライブといった施設も。4階の名画座・シネマヴェーラ渋谷も6月6日から「ヒッチコック監督特集」で営業再開し、ユーロスペース同様に徹底した対策で観客を迎えている。 ■ ミニシアターへの感謝、励まし 取材時には、ユーロスペースのスクリーン2でアキ・カウリスマキ監督作「希望のかなた」を上映していた。終映後に出てきた観客の1人(70代女性)は、チケット売り場に駆け寄り「すごくいい映画だったわ!」と係員に声を掛ける。「映画館で観るのが一番」だというこの観客は、客足の少なさを心配しつつ「でも、のびのびと観られてよかった。笑い声も聞こえたりして」と変わりつつある映画体験の感想を述べた。 また「三大怪獣グルメ」を観に来た吉田綾乃クリスティー(乃木坂46)ファンの観客(10代女性)は、宣言解除後に初めて映画館を訪れたという。劇場の万全の対策を目の当たりにして「両隣の席も空いてるので不安はありません」と久々の映画館に声を弾ませた。シネマヴェーラでアルフレッド・ヒッチコック特集を観る観客(50代男性)は、池袋の新文芸坐からハシゴ。「延期されていた特集や公開作が一気に始まって、むしろ忙しいです!」と映画ファンならではの悩みを嘆いた。 ユーロスペースのエレベーター上部を見上げてみると、壁に「令和コロナ退治」と記されたお札が貼られている。これは豊田利晃が手がけた短編映画「狼煙が呼ぶ」に登場する架空の神社・狼蘇山(おおかみよみがえりやま)神社の疫病除けとして、同作を上映した全国各地のミニシアターに豊田が自ら配布したもの。「ともに乗り越えよう」という気概とともに、作り手と映画館は互いに“なくてはならない存在”だという関係性がうかがえる。 ■ 支配人・北條誠人が語るコロナ禍と現在 □ お客さんの支援が励みに 非常事態宣言を受け、4月8日から5月31日まで休館したユーロスペース。支配人の北條誠人は「3月下旬、休日の外出自粛要請が出た頃にはもう完全に劇場から人が離れてしまいました」と振り返る。スタッフから「まれに来るお客さんとの接触より、通勤での感染リスクのほうが怖い」という声も上がっていたそうで、「非常事態宣言がなくても休館していたと思う」と打ち明けた。 全国の映画館が休館に入ってから、ミニシアター・エイド基金やSAVE the CINEMAといった小規模映画館の支援プロジェクトが発足。ユーロスペースも参加したミニシアター・エイド基金は、総額3億円を超える寄付を集めて大きな話題となった。劇場スタッフは「ミニシアターを応援してくださっているのが目に見えてわかってうれしかった」と、全国のファンの気持ちを受け止めていたという。 参加団体に分配される支援金の使い道を尋ねると、ユーロスペースの場合、大半は人件費に割く想定とのこと。北條は「映画館は人が集まるハブのような場所。制作者、役者、配給や宣伝と深くつながっている」と語り、「ミニシアターの場合は特にそう。劇場スタッフにしても経営スタッフにしても後継者を育てるのに時間がかかるんです。だから『スタッフを守らなければ』という思いはどこの劇場もあったはず」と支配人としての責任に言及する。休館中はアルバイトも含めてスタッフに給与を支払っていたそうだ。 業界で巻き起こったプロジェクトとは別に、観客からの個人的な支援もあったとか。ユーロスペースの岡崎真紀子は「一般の方から現金書留で支援をいただきました。お礼状と招待状をお送りしたら、それに対してもお礼状をくださって(笑)。うれしかったです」と深く感謝する。北條も「30年以上前に劇場でバイトしていた元スタッフが『給付金をもらったら寄付します』と声を掛けてくれたり。お客さんから励ましのお手紙もいただきました」と、さまざまな形での応援に勇気付けられたと伝えた。 □ 再開後の上映作品は「図らずもいいラインナップに」 6月1日からの営業再開ラインナップには、映画産業が崩壊したスーダンで一夜限りの映画館復活を目指す人々を映したドキュメンタリー「ようこそ、革命シネマへ」や、ユーロスペースが配給したアキ・カウリスマキ監督作「希望のかなた」の再上映などが並んだ。岡崎は「図らずもいいラインナップになった」というこの作品群について「コロナとは関係ないテーマの作品ですが、困難なときにどう助け合うか、どう立ち向かうかという今の状況に通ずるものがあって。いい作品には、どんな状況でも当てはまる本質が描かれているんだなと。改めて映画の力を感じました」と語った。 6月20日に韓国映画「はちどり」が封切られると、週末は座席数が半分ながらも満席に。活気を取り戻しつつあるように思えるが、北條は実情を吐露する。「映画館って稼ぎ時にうんと稼いで、あとはひたすら耐えるしかないんです。座席数がフルで埋まるのが前提でも充足率や回転率は年間37%ぐらい。それが半減するのは本当に厳しいし、半分しか埋まらないのは気持ちも下がっちゃいますよね」。 □ “第2波”を押さえることも大事 映画館の支援に直結するのは、やはり「映画を観に行くこと」だ。一方で、北條は「あまり無理しなくていいですよ」とも呼びかける。1年後にはコロナ禍による負債の返済も始まり、厳しい状況は長期化していくだろう。だが一番避けたいのは“第2波”によって再び休館を強いられること。全国各地からファンが訪れるユーロスペースだが、北條は「映画館はなくなったり逃げたりしません。耐え凌げば生き残っていけるでしょう。だからあわてなくても。それより今はみんなで収束を待つことも大事だと思います」と未来を見据えてメッセージを投げかけた。

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