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[寄稿]差別との戦い

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ハンギョレ新聞

 アメリカ、ミネソタ州で警察官が黒人男性、ジョージ・フロイド氏の首を膝で押さえつけ、死なせた事件は予想外の反響を呼んでいる。事件から半月以上たった今でも、アメリカのみならずヨーロッパやオーストラリアなど多くの国で抗議行動が続いている。新型コロナウイルスによって人間の生命が脅かされる状況の中、黒人であるというだけで虫けら同然に扱われて命を落としたという不正義を見て、良識ある人々の怒りが沸き上がった。  日本のニュースでもこの事件は取り上げられた。しかし、残念ながら、この事件は差別を許さないという決意を日本人が再確認する機会ではなく、日本社会が差別の放置していることを示すきっかけとなった。  たとえばNHKの国際問題に関する解説番組で、黒人の抗議行動の背景を説明すると称して作られたアニメーションが余りに問題の本質を理解せず、黒人に関する先入観を助長すると批判を浴びた。この番組に関する毎日新聞の記事を引用する。  動画では、白いタンクトップ姿で筋肉質の黒人男性が登場。「俺たちが怒る背景には、俺たち黒人と白人の貧富の格差があるんだ」と話す。白人の資産平均が黒人の7倍であることや、新型コロナウイルスの影響による失業などで黒人が打撃を受けたことを挙げ、「こんな怒りがあちこちで噴き出した」としている。背景の路上で拳を振り上げる複数のキャラクターもすべて黒い肌の人として描かれている 毎日新聞6月9日  経済格差が存在することは事実だが、今回の抗議運動が訴えているのは黒人の生命と尊厳を等しく尊重せよという主張である。それには多くの他人種の人々も賛同している。社会正義の問題が黒人の不満に置き換えられている点で、この番組は報道の名に値しない。ジョセフ・M・ヤング駐日米臨時代理大使は「使われたアニメは侮辱的で無神経です」と抗議し、NHKも謝罪した。日本のジャーナリズムの質が問われている。  人種差別は日本ではよそ事のように受け止められている。しかし、この機会に日本社会における差別について再認識し、差別を解消する努力を進めなければならない。最近気になる事例を紹介したい。それは、1923年9月1日に起こった関東大震災の際の朝鮮人虐殺の犠牲者を追悼する運動をめぐる小池百合子東京都知事の対応である。毎年この日に、有志団体が慰霊碑のある公園で犠牲者を追悼する式典を開いてきた。歴代の知事はこれに追悼文を寄せてきたが、小池知事は2017年以来送っていない。昨年は、犠牲者全体を追悼したので、特に朝鮮人について別のメッセージを出さないと述べた。また、今年の式典について、虐殺そのものを否定する極右団体が近くで慰霊祭と称するヘイトスピーチ宣伝のイベントを予定していることから、追悼式典実行委員会と極右団体の両方に混乱を起こさないという誓約書の提出を求め、それがなければ公園の使用を許可しないと通告してきた。  小池知事のこの論法は、アメリカにおけるBlack lives matterを嘲笑するためにAll lives matter(すべての人間の命が大事)と叫んだ白人の言い分を想起させる。すべての人間の生命を大事にするという理念を誠実に追求し、黒人のみならず差別されている少数者の権利尊重のために努力するなら、All lives matterというスローガンにも意味はある。しかし、実際には差別したい白人が、黒人の命が大事だという主張を否定するために、黒人が殺害されたという事実から目を背け、すべての命が大事だと、自ら信じてもいない一般論を唱えるのである。小池知事も、虐殺の犠牲者を追悼したいのではなく、それを避けるためにすべての犠牲者の追悼という理屈に逃げている。  差別を反省し、人間の尊厳を訴える主張と、他民族を差別するヘイトスピーチを同列に並べ、両者に言論のルールを守れと要求することは、一見中立的に見えて、実は極めて不公平である。差別を許さないのはあらゆる言論の前提である。差別をまき散らす言論に対しては、民主主義の政治家は、絶対に支持しないという強いメッセージを送るべきである。  小池都知事は7月の選挙で再選される勢いである。しかし、人気政治家が差別についてあいまいな態度を取ることによって、日本社会に差別の害毒が広がっていく。アメリカの事件は日本にとっても他人事ではない。 山口二郎・法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

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