Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

赤川次郎「三毛猫ホームズの無人島」 娯楽に忍ばせた弱者の叫び 【あの名作その時代シリーズ】

配信

  • この記事についてツイート
  • この記事についてシェア
西日本新聞
赤川次郎「三毛猫ホームズの無人島」 娯楽に忍ばせた弱者の叫び 【あの名作その時代シリーズ】

隆盛を極めた後、棄てられた「軍艦島」。そこだけ、時が止まっていた=長崎市・端島(本社ヘリから)

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は07年2月25日付のものです。 **********  「あっ珍しいな、と思いました」    光文社(東京)で長年、赤川次郎を担当した編集者石坂茂房さん(42)は、「別冊小説宝石」一九九六年初冬号に掲載された「三毛猫ホームズの無人島」の原稿を受け取ったときのことをよく覚えていた。「実在の地名が書かれていましたから。〈軍艦島〉って」  赤川の作品で、人名以外の固有名詞が登場するものは皆無に近い。  天才的推理能力を持つ飼い猫にヒントをもらいながら、殺人事件を解決する「三毛猫ホームズ」シリーズ。主人公は警視庁捜査一課の刑事だが、四十冊を超えた同シリーズには「東京」という文字すら、めったに出てこない。物語の舞台を特定する場合も、N女子高校、T高原とイニシャルで表記するだけ。風景の具体的な描写も極端に少ない。現実世界を連想させる表現をなるべく控え、会話を主体にテンポよく話を進めることで、血なまぐさい殺人劇さえも軽妙なユーモア・ミステリーに仕立て上げてしまう。幅広いファン層を持ち、毎年約二十冊という驚異的なペースで作品を刊行し続けてきた赤川の流儀の一端が、そこにはある。  ところが「無人島」には、長崎港沖に浮かぶ端島(はしま)(通称・軍艦島)が舞台と分かる言葉や情景描写が並ぶ。    ■   ■  現在、端島への上陸は禁止されている。ヘリコプターで空から迫った。長崎市上空に差しかかったころ、濃紺の海原にセピア色の“艦影”が浮き上がってきた。コンクリートで塗り固めた岩礁に、高層アパートの群れを植え込んだ異形の島がそこにあった。

本文:2,647文字

写真:1

    続きをお読みいただくには、記事の購入が必要です。

    すでに購入済みの方はログインしてください。

    税込220
    PayPay残高
    T-POINT
    使えます
    サービスの概要を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。購入後に記事が表示されない場合はページを再度読み込んでください購入した記事は購入履歴で読むことができます。

    西日本新聞

    西日本新聞の有料記事

    PayPay残高使えます