大瀬良大地「まだ俺もいるよ」エースの称号を譲ってなお過去最高防御率1.46の快投を続ける11年目右腕の進化の要因
セ・リーグのペナントレースは終盤に入っても混戦模様のままで、各球団とも今季の戦いの真価が問われている。残りは20試合前後。6年ぶりの優勝を目指す広島にとって、10日からの3連戦を含め、巨人との直接対決が持つ意味は大きい。 【貴重写真】白スーツの衣笠、打席でエグい殺気の前田やノムケン、胴上げされる山本浩二、痛そうな正田、炎のストッパー津田恒美などカープ名選手のレア写真を一気に見る 残る直接対決は5試合(データは9月10日時点。以下同様)。広島はチームの勝ち頭である床田寛樹とともに、今季復活を遂げた大瀬良大地をそれぞれ2試合先発させる見込みだ。 大瀬良にとっては自らの存在意義を示す登板でもある。初回に2本のホームランを浴びて3失点した前回登板の中日戦(9月6日)からの巻き返しだけではない。昨季まで2シーズン続けて一桁勝利に終わり、チームの力になれなかった悔恨の念を晴らすチャンスと捉えている。 「もうだいぶ前から自分のために投げている感覚はない。チームのためになれば」 2016年に黒田博樹(現・球団アドバイザー)が引退した後、こだわり続けた「エース」という称号にも執着しなくなった。FA権を行使せずに広島残留を決めた21年頃から、チームのためだけに右腕を振ってきた。ここ数年はケガの影響で納得のいく投球ができなかったが、あがく姿を見せることも使命と悟った。 だが、投手の本能は満たされなかった。22年は前半戦まで7勝を挙げながら、後半戦は負傷離脱もあり勝ち星を伸ばせず、チームも順位を落としていった。昨季は右肘の痛みを抱えながら、限界点に達したら手術に踏み切ると決断し、“片道切符”で腕を振った。結局、シーズン最後まで投げ続け、CSファイナルステージでは日本一となった阪神相手に7回3安打1失点(自責ゼロ)の快投を見せた。 オフに行った右肘クリーニング手術前の検査では、夏頃から一部の骨が折れていたことも分かった。気力が体力を上回ったシーズンだった。
會澤が明かす復活の理由
今季は完全復活を印象づける。肩肘への不安が消え、苦しんだシーズンでもがいた分だけ、フォームや持ち球の精度も上がった。6勝4敗と勝ち星こそ伸びていないものの、8月中旬まで0点台をキープした防御率はリーグ2位の1.46。自身が登板した試合は14勝5敗2分けと、チームに9つの貯金をもたらしている。 今季すべての登板試合でバッテリーを組む會澤翼は復活の要因をこう明かす。 「あまり言いたくないけど、三振を取りに行こうとしなくなったことだと思います」 今季初登板だった4月4日のヤクルト戦、6回途中までに3失点したことで2人は変化を求めた。直球と得意球のカットボールで押すそれまでのスタイルから、シュートやフォークの割合を増やした。さらに球速や球威ではなく、球の切れと制球を求めた。 次の登板となった4月11日の阪神戦で、大瀬良は7回を零封して1-0の勝利に貢献。會澤はこの試合を転機と語る。そしてこの試合の投球は、大瀬良にとっても新たな出発点となった。 「自分の中ではどうなるのか、という興味があった。ただ、結果的にも良かったので、これでいいんだと思えた」 その後、勝ち星には恵まれなかったものの、防御率は0点台を維持した。5回目の登板となった5月8日の阪神戦で今季初勝利を挙げると、6月7日のロッテ戦ではノーヒットノーランを達成。27アウトのうち、三振で奪ったアウトはわずか2個だった。追求してきた投球が正しかったことを大記録で証明してみせた。 投手の高速化に逆行するように、直球の速度を140キロ台後半ではなく140キロ台半ばに抑え、精度を高めた。直球の最速が上がらなくても、不器用ながら磨いてきた他の球種の球速を落として、緩急で打者を惑わせることができる。たとえばシュートは今季序盤の時点では精度が悪かったが、會澤が根気強く要求し、大瀬良も首を振らずに投げ続けてきたことで新たな武器となっていった。
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