商社マンが機密情報の横流しで“懲戒解雇・退職金不支給” 「処分が重すぎる!」の訴えに裁判所の判断は
裁判所の判断
Xさんの完全敗訴である。 裁判所は、まず、Xさんの行為は就業規則等に違反していると判断。具体的には以下のとおりだ。 ・情報の大量コピー:機密保持違反、情報管理規程違反、公私混同 ・婚約者に送信:機密保持違反、公私混同 ・自分に送信:情報管理規程違反 ■ 懲戒解雇はやりすぎなのか? Xさんは「だとしても懲戒解雇は処分として重すぎる」と主張。しかし、裁判所は「重くない。懲戒解雇OK」と判断した。理由は以下のとおりだ。 ① 情報の大量コピー 「極めて重大な非違行為と評価せざるを得ない」(裁判所) 理由は以下のとおり。 ・退職後に利用する目的があった ・そのデータの中には情報管理規程における機密情報に該当する資料もあった ・この機密情報は、競合他社などに知られることで、会社の競争力や信用力の低下を招き、会社に有形・無形の損害を生じさせ得る ・情報量の多さからすれば会社に与える影響は極めて大きい ・特に一定の情報については、第三者に知られると入札額が推測され、会社が極めて不利な状況に置かれる可能性がある、あるいは秘密保持契約を締結した相手方から法的責任を問われる可能性があった ② 婚約者に送信 「競合他社に勤務する婚約者に5回も送信しており、目的はもっぱら私的目的であり、送信したデータの中には会社の機密情報も含まれていたので、相応に重大な非違行為と評価できる」(裁判所) ③ 自分に情報を送信 「会社での業務遂行を目的として行われた可能性も否定しがたい。上記①②に比べて非難可能性が低い」(裁判所) しかし、上記①②の行為の悪質性・重大性を踏まえて、結論として「懲戒解雇はOK」と判断した。 ■ 退職金 「行為の態様、性質、重大さ等の点に照らせば、退職金を支払わなくてもOK」(裁判所) 〈解説〉 懲戒解雇=退職金ゼロとなるわけではない。現在の裁判所は、本当にヒドイ場合だけ(正式用語:労働者の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく正義に反する行為があった場合だけ)について退職金ゼロをOKとしている。 今回の判決文では詳細が述べられていなかったが、当然にXさんの行為は著しく正義に反すると判断されたのであろう。
ほかの裁判例
冒頭でも述べたとおり、機密情報の持ち出しで退職金が吹き飛んでいるケースが最近多い。(関連記事①②参照) 転職先に“お土産”を持っていきたい気持ちをグッと抑えていただければ幸いだ。 林 孝匡(はやし たかまさ) 【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。
林 孝匡