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「山奥ニート」のリアル#9 見学者が200人を超えた

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本がすき。

和歌山県の限界集落で集団生活を営む「山奥ニート」。 集落のお爺さんやお婆さんのお手伝いなどをしてお小遣いを稼ぎ、なるべく働かずに生きていくことを実現した彼らの暮らしを、『「山奥ニート」やってます。』(石井あらた著・光文社)から全12回にわたって紹介します。

田舎にいると、新しい人と出会う機会が少なくなる。 ずっと同じ面子でいると、だんだんと人間関係が固定されてコミュニティの空気が淀んでくる。そうなると、ムラ社会化していく。 排他的になるし、序列が固定化されるし、しきたりを破った者は制裁されるようになる。 僕らの山奥では、それを回避するために、外からの見学者を受け付けている。 見学者は施設使用料を払えば、2週間まで滞在できる。 旅館じゃないから、身の回りのことは全部自分でやってもらう。 その代わり、料金は最低限だ。儲けはない。 今までに、だいたい200人がこんな山奥に見学しに来ている。 見学の目的はさまざまだ。 単に興味本位で遊びに来る人、ここに住むため下見に来る人、シェアハウスを作る参考のために来る人、休職中で癒やしを求めてくる人などなど。 ありがたいことに、外からやってくる人はいろんなお土産を持ってきてくれる。 山奥にいながら全国各地の銘菓を食べさせてもらった。 自炊ばかりだから、珍しい味はそれだけで面白い。 お酒を持ってきてくれる人もいる。ゴールデンウィークやお盆などの連休は毎日酒盛りだ。 都市で暮らしていたら絶対に合わなかった人にも、山奥にいることで会えた。 沖縄でゲストハウスを経営している人、ここを取材したいという映像作家、M -1出場者、億万長者、作家、自称魔女。 外から来た人が多い日は、ここが山奥だとはとても思えない。 都会のいいところって、思いもよらない出会いがあることじゃないかな。 だから、そんなときはここがどんな街よりも都会に思える。 見学者同士で仲良くなって、その後も連絡を取り続けることもあるみたいだ。 ここに来る人は、ある程度下地に共通の価値観があるからきっと話しやすいんだと思う。 もし人と会いたくない気分なら、部屋から出なければいい。 ここにいるには、外から来た人と話す権利があるのと同時に、愛想を悪くする権利を持っている。 ここは、旅館でもお店でもないんだから。 でも、テレビや雑誌に取り上げられると数ヶ月後にワッと一斉に見学者が押し寄せる。 ただのニートの家なんだけどな。 この場所をよくわかってない人が来ると面倒くさい。 以前、ここをライダーズハウスだと思って来たおじさんがいた。 その日の晩ごはんはたこ焼きだったんだけど、「晩ごはんにたこ焼きなんか食えるか!」と怒って部屋から出てこなかったらしい。 別にいいと思うんだけどな、晩ごはんにたこ焼き。 ここまでひどい人は他にない。 この場所はとんでもなく不便な場所にあるから、生半可かな覚悟じゃ辿り着けない。 だから、ここに来るほとんどの人は、しっかり前調べして来てくれる。 それでも、最近はあまりに人が来すぎて疲れてしまうから、毎月1~15日だけ見学者を受け入れて、残りの16~31日は泊まりの見学は断ることにした。 だから、月の半分は静かな山奥だ。 自分は一歩も動いてないのに、喧騒と安静を繰り返している。 単調になりがちな山奥暮らしの、良いスパイスだ。

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