人気オンラインサロンは「信者の集合体」なのか
パンデミック、Z世代の台頭、SDGs、DXの急進……。ビジネスの環境が激変する今、企業の広告手法が大きな分岐点を迎えている。そんな中、北米を発祥とする「カルトブランディング」という技法がにわかに注目を集めている。カルト宗教のように“信者”獲得を目指すブランド戦略が今の時代に求められる理由とは? 本稿は、世界のマーケティング、ブランディングの潮流を取材し続けている田中森士氏の新刊『カルトブランディング―顧客を信者に変える技法』から一部抜粋・再構成して紹介します。
■「カルト宗教」にヒントを得たカルトブランディング 北米には、カルト的な人気を誇り、熱狂的な“信者”を抱える「カルトブランド」という概念が存在する。そして、カルトブランドを目指すブランディング手法を「カルトブランディング」と呼ぶ。 カルトブランディングはその名のとおり、「カルト宗教」からヒントを得ている。カルト宗教の信者が持つ「極めて高い忠誠心」の秘密はどこにあるのか。この観点で、カルト宗教の学術研究や書籍から、ブランディングに使えるノウハウやメソッドを抽出して生まれたとされる。
カルトブランディングにおいては、何より信者の獲得に重点が置かれる。ひとたび信者になれば、目に見えるさまざまな方法で自身とブランドとの関わりを示す。つまり、「伝道師」としての役割を自ら進んで担うようになる。 マーケティング業界において「口コミ」の重要性は、さまざまな書籍において語られている。カルトブランドの周辺においても、当然口コミが発生するわけだが、それに「熱狂」「熱意」といった要素が加わる。また、信者間にはある種の「同胞意識」「秘密結社的な意識」が生まれるケースも多い。熱狂や同胞意識といった単語からは、カルトブランドが持つ「コミュニティー」の存在が透けて見える。
カルトブランディングにおいてコミュニティー構築は極めて重要な部分であり、カルトブランドはしばしば意図的にコミュニティーを生み出す。自然発生的にコミュニティーが生まれることもあり、その場合はコミュニティーを全面的に支援する。 こうしたコミュニティー内で信者らは「非合理的な行動」を起こす。その行動はカルトブランドのビジネスを一気に加速させる。この過程は、カルト宗教の組織拡大のそれと酷似している。 カルトブランディングの定義を確認しておきたい。日本で出版された数少ないカルトブランディング関連本『カルトになれ! 顧客を信者にする7つのルール』(マシュー・W・ラガス、ボリバー・J・ブエノ著、フォレスト出版)では、カルトブランディングを「企業、人間、場所、組織を、実際に『好きなブランドのためなら身を捧げる信者』の集合体に変えるプロセスを指す」と定義している。