ドイツのブンデスリーガ厳格予防対策で無観客再開も残された危惧
一方で最初の検査で2人の選手に陽性が確認された2部のディナモ・ドレスデンは、保健所の指示でチーム全員が2週間の隔離生活に入った。必然的に敵地で16日に行われる予定だった、日本代表MF原口元気が所属するハノーファー96戦は延期となっている。 一連のプロトコルを厳守することで、ドイツ政府から再開の許可を取りつけた。練習場での個人トレーニングから身体接触のないグループ練習をへて、身体接触のある全体練習へ強度を上げていくプロトコルを含めて、ブンデスリーガで実施された数々の施策をすでにJリーグも入手。作成中の「Jリーグ新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」を順次アップデートしていく。 PCR検査を徹底させる作業を除いて、試合を終えるまでのプロトコルは非常に参考になる。そして、1600人を超えるJリーガー全員がPCR検査を受けるコンセンサスを得られない状況のなかで、グループごとに検体をミックスしてPCR検査を実施して効率化を図る方法や、確度こそPCR検査に劣るものの、15分間ほどで検査を終えられる抗原検査を導入するプランが検討されている。 それでも、試合を後えた後に生じる事態については、まだまだ未知数の部分が多いと言わざるをえない。普段から身体を鍛えているアスリートを、予期せぬリスクが襲うおそれがあるからだ。 「一流アスリートは試合を終えた後に、通常の人に比べて免疫力が低下する医学的な論文もあります。なので、感染に関してはよりしっかりとした対応で臨まないといけない」 体力を消耗したことで免疫力が一時的に低下。同時に新型コロナウイルスを含めた感染症へのリスクが高まると指摘したのは、日本野球機構との共同で設立した新型コロナウイルス対策連絡会議で招聘した専門家チームの一人、愛知医科大学大学院医学研究科の三鴨廣繁教授(臨床感染症学)だ。
激しい息切れを伴う競技ほど、免疫力の低下が見られる報告もある。サッカーはハードなスポーツの代表格であり、コンタクトプレーが不可避な試合中は予防することもできない。専門家チームの座長を務める、東北医科薬科大学の賀来満夫特任教授(感染制御学)もこう指摘している。 「できるだけいい状態で試合に臨んでいただきたいという観点で言えば、完璧にはできないかもしれませんが、それでも検査態勢というのは今後において非常に重要な課題になります」 試合後に感染リスクが高まるからこそ、ブンデスリーガでは選手たちが同じ時間を共有する家族にも定期的なPCR検査を義務づけている。それでも今後も試合前日に実施されるPCR検査で、万全な予防対策を講じているブンデスリーガで陽性が確認されれば、サッカーを取り戻したい思いと感染への不安との間で揺れる他国のリーグの選手たちの針が、後者へ大きく振れてしまうだろう。 再開されたブンデスリーガでは全員が整列しての入場や試合前後の挨拶はなく、選手同士の握手やハイタッチ、ゴールが決まった後に抱き合って喜ぶ行為もすべて禁止された。6月27日までに残り9試合あるいは10試合を終わらせる過密日程がもたらす負担を考慮して、国際サッカー連盟が時限的に承認した、交代枠を従来の「3」から「5」に増やすルールも導入された。 それでもホッフェンハイム対ヘルタ・ベルリンでは、ゴールを決めた後者の選手の額に味方が思わずキスをして物議をかもした。ボルシア・ドルトムント対シャルケ04では再開後のリーグ初ゴールを決めた前者のエース、19歳の新星アーリング・ブラウト・ハーランドに浴びせられた侮辱的な言葉を集音マイクがキャッチ。後者のセンターバックに厳しい処分が下される可能性が報じられている。 再開までにたどるべき経緯や再開当日の厳格な運営方法、さまざまなルールが設けられた無観客試合で起こりうる事態をブンデスリーガは発信した。それらを受け止めた日本を含めた世界は、プレーした選手たちから新たな感染者が出ないことを祈りながら、今後の推移を見守っていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)