佳子さま、愛子さま、悠仁さま…皇族の結婚に必要なのは愛か家柄か、それとも覚悟か? 林真理子『李王家の縁談』が投げかける令和皇室への“問い”
正田美智子という衝撃
林 日記を読んでいると伊都子って本当に面白い。空襲で家が焼けたとき、近くの娘の家に行くと安心してぐっすり眠れた、なんて書いてありましたが、いかにも皇族妃らしい。家なんて焼けてもまた誰かが建ててくれる、って思ってるんですよね。 小田部 そうそう。鷹揚というか育ちが良すぎたというか。その一方、医学の知識が豊富で、外国も訪れていたし合理的なものの見方もできて、時代が時代なら医者になっていたかもしれません。 林 お友達にはなれないでしょうけど、非常に面白い方ですね。彼女の日記の中でなんといっても印象的なのは正田美智子さんの婚約内定エピソード。戦後、皇族の立場を奪われ一市民となった伊都子がテレビをつけると、見たこともない美しい女性が映っている。御両親と婚約発表会見に臨む姿に、伊都子はものすごく憤慨するんですよね。 小田部 日記の中でも自分の両親を名前で呼ぶほどに皇族としての立場を大切にしてきた伊都子にとっては、皇族どころか華族の出身ですらない一女性が皇室に入ることなど理解できなかったのでしょう。美智子さまは、皇族が代々学ばれた学習院のご出身でもありませんし。家柄を重視する縁談に奔走してきた彼女にとって、今の上皇さま、上皇后さま(美智子さま)のご結婚は受け入れがたかったのだろうと思います。 林 特に長女を李王家に嫁がせたことは、政略結婚の意味合いも強いですものね。ある意味自分の娘を犠牲にしてまで“縁談おばさん”として国のために尽くしてきた伊都子からしたら、軽井沢でテニスをする姿を見初めたなどという馴れ初めは、とても信じられないでしょう。 小田部 戦前は、皇后になれる人の身分が法律で決められていたくらい。このお二人の結婚を機に、皇室における自由恋愛の雰囲気が生まれたなんて言われていますね。
どこか欠けた結婚観
林 その後、秋篠宮殿下と紀子さま、天皇陛下と雅子さまと自由恋愛の風潮が続きますが、驚いたのが眞子さまと小室圭さん。2017年に婚約が報道されたときには世の中が祝福ムードに包まれましたが、数か月後、小室さんの母親の借金問題(文庫編集部注:現在は解決済)が明らかになると一気に非難されるようになりましたよね。私もはじめは、「お二人がそんなに愛し合っているのなら許してあげたら」という感じでしたが、だんだんと「よくもまあひっかき回してくれて」なんて思うようになりました。圭くんの登場で、私たちの皇室観はすっかり変わってしまったような気がします。 小田部 ある意味、われわれ平民と皇室がつながってしまったというのがショックだったのでしょうね。美智子さまを境にいくら自由恋愛的な風潮になってきたとはいえ、本当の“自由”ではありません。相手のご家庭が調査されたり、皇族のお知り合いだったり、家柄は保証されていましたから。 林 正田家なんて文化勲章受章者も出していて、お家柄も非の打ちどころがありませんものね。 小田部 爵位こそありませんが戦前から代々の実業家で、戦後は財産を失った旧華族などよりよっぽどお金持ちだったと思いますし、上流の家柄であったことは間違いない。もはや平民ではありません。僕なんか、美智子さまの子どものときの映像が残っていることに驚きましたよ。 林 ブランコかなにかに乗っていらっしゃる。 小田部 そうそう。あの時代、ふつうの家庭にはビデオなんてありませんからね。一部の上流階級の家庭でないと持っていませんよ。 林 それから、マントルピースの前で写した正田家の有名な記念写真がありますね。あれなんてもう華族を通り越して皇族といってもいいくらいの気品と貫禄があります。 小田部 確かにそうですね。結婚は「両性の合意のみに基いて成立し」とたしかに憲法には書いてあります。とはいえ両家あってのものだから、家柄の問題は捨てきれない。皇室は特にその意味合いが強いのに、自由、自由と言われるうちにそこがすっぽり抜け落ちて、どこか欠けた結婚観が広まってしまったと思うんです。美智子さまの場合は一平民が皇室に入ったのではなく、それなりの社会的地位と資産を持つ家の令嬢が入られた。そこはやはり格差婚とはちがうということをわかっていなければいけませんね。
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