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「ロッテより弱い」巨人、逆襲の起爆剤となった「無責任な男」/プロ野球20世紀・不屈の物語【1989年】

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週刊ベースボールONLINE

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。 【日本S回顧07】加藤哲の発言に駒田が意地の一発【1989年】

予定どおりの第4戦

 口は災いの元という。なにも罵詈雑言に限ったことではない。同じ言葉でも、発信する人と受け取る人の意図が異なる場合があり、あるいは悪意をもって操作されて、ひとり歩きを始めた言葉が災いをもたらしていくのだ。プロ野球も例外ではない。その歴史に舌禍トラブルは少なくなく、中には明らかに悪意のある発言もあったが、ひとつの発言が日本一の行方をも左右したとされるのが、1989年の日本シリーズで近鉄の加藤哲郎が放ったものだろう。  3度目のリーグ優勝を果たした近鉄は、日本シリーズで巨人に無傷の3連勝。その第3戦(東京ドーム)で勝利投手となった加藤が、試合を終えて「巨人はロッテより弱い」と発言したとされるものだ。ロッテは、近鉄にとって前年の最終戦ダブルヘッダー“10.19”で優勝を阻んだ相手でもあり、2年連続でパ・リーグ最下位。実際には、そこまで挑発的なことは加藤も言っていないのだが、ビッグマウスがキャラクターでもある加藤、発言が端的に脚色され、ものすごく短い「ロッテより弱い」となってしまった。  これに巨人ナインが奮起して、怒りの4連勝で逆転の日本一。これが、この89年の日本シリーズの、いわば定説だ。もちろん、ここにも言葉が持つ負の特性が発揮されている。ひとつの発言で風向きが一変するほど頂上決戦は簡単なものではない。ただ、シリーズの分岐点となったのは、その翌日の第4戦(東京ドーム)だったことは確かだ。  巨人の先発は香田勲男。投げ終えた後にマウンドで飛び跳ねる躍動感あふれる投球ながら、100キロにも満たないスローカーブを武器にした右腕だ。この89年の巨人は、復帰した藤田元司監督が先発完投を重視する方針を掲げたことで、槙原寛己、斎藤雅樹、桑田真澄の“先発三本柱”が確立され、香田はペナントレースでは谷間の先発やロングリリーフを中心に7勝。もともと第4戦の先発は予定されていたが、第1戦から3連敗という結果を受け、「(読売新聞の名誉会長だった)務台光雄さんが監督の部屋に来られて、誰で行くんだ、と聞いたらしい。藤田さんが、香田で行きます、と言ったら、大丈夫か、となって、投手コーチの中村稔さんまで呼ばれたということで(笑)。スポーツニュースでも解説者が、ここは(シーズン20勝で最多勝の)斎藤で行くべきでしょう、とか言っている。俺でいいのかなって」(香田)。  一部では「もう巨人はあきらめたのか」とさえ言われた。ある意味、加藤の発言よりも酷い。香田はプレッシャーに潰されても無理のない状況に追い込まれた。だが……。

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