梅宮アンナさんの告白が話題…乳がん検査でエビデンスあるもの、ないもの【中川恵一 がんサバイバーの知恵】
【Dr.中川 がんサバイバーの知恵】 乳がんで右胸を全摘したタレントの梅宮アンナさん(52)が診断のいきさつやこれまでの気持ちの変化などについて文春オンラインに語った内容が話題を呼んでいます。その中には、がん専門医として注目したポイントがありますから、解説しましょう。 梅宮アンナさんが告白…特殊な乳がん発見に役立つセルフチェック 1つは、診断がつく前に受けたドゥイブスサーチです。ドゥイブスは、全身のがんを一度に調べるMRI検査のこと。その乳がん専用タイプがドゥイブスサーチです。無痛や被ばくゼロ、造影剤不要などを売りに人気を集めています。確かにこの3つについては、その通りです。 ネットにはドゥイブスサーチと従来のマンモグラフィーを比べて、乳がんの発見率はドゥイブスサーチが高いとする記述もありますが、現在、ドゥイブスサーチに乳がんの死亡率を下げるというエビデンスはありません。あるのはマンモグラフィーで、がん検診に採用されているのはそのためなのです。 今回、梅宮さんはこの検査で「がんではなくて、(良性の)嚢胞です」と診断された後に、マンモグラフィー検査とエコー検査の結果が出て、乳がんの一種の浸潤性小葉がんでステージ3と判明したといいます。ドゥイブスサーチは慎重な読影が必要で、これだけに頼るのは心配です。 もう1つは、検査を受けるまでの体の変化について。梅宮さんは右胸のサイズが突然、小さくなったことに気づき、「昨日の自分と違ってたんです。カップでいうと、CからAぐらいになっちゃって」と表現されています。 1日でこれだけ急にサイズダウンするのは驚くことですが、梅宮さんはがんではなく、更年期と判断したことが書かれています。更年期症状に悩んでもおかしくない年齢ですが、ホットフラッシュやうつ、イライラ、頭痛といった典型的な症状がなかったことから、「私の更年期ってこうなんだ」と思ったそうです。 もし胸の症状が更年期だとすれば、ホルモンバランスの変化によるものですから、片側だけでなく両側に見られなければおかしいはず。しかし、片側ですから、更年期症状とは考えにくい。胸の症状の左右差は、乳がんを疑うべきです。 左右差は大きさのほかに、乳輪の後部のしこり(痛みがないことが多い)、乳頭からの出血、皮膚の潰瘍、わきの下のリンパ節の腫れなど。これらがどちらか一方に見られたら、決して見逃してはいけません。もしセックスの最中、パートナーの変化に気づいたら、婦人科の受診を勧めるべきでしょう。検査と同時にセルフチェックも欠かせません。 梅宮さんは乳がんを経験したことで保険診療や標準治療の大切さを痛感したと語っています。まさにその通りで、自由診療は検査も治療も安易に頼るのは危険です。 (中川恵一/東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授)