実は男性/女性、朝型/夜型で「なりやすい病気」に違いがあった…!
朝型と夜型、なりやすい病気の違い(男性編)
1) 心肺持続力低下 心肺持続力とは、運動中に骨格筋へ酸素を供給する呼吸器系と循環器系の能力のことです。一般に、最大限に運動したときに体内に取り込まれる酸素摂取量で評価され、その値が低いときは心血管疾患リスクが高いとされています。 成人の男女を対象にして、トレッドミル(屋内でウォーキングやランニングを行うための器具)を用いて運動負荷中の酸素摂取量を測定したところ、男性では朝型タイプの人よりも夜型タイプの人ほうが、酸素摂取量が少ないことが明らかになりました12)。さらに、夜型タイプの人のほうが朝型タイプの人よりも太っており、ウエストも太いことが分かりました12)。 一方、女性ではそのような夜型タイプと朝型タイプの差はありませんでした。したがって、男性では夜型タイプの人ほうが、朝型タイプの人よりも心血管疾患リスクや糖尿病などの肥満に伴うリスクは高いものと思われます。 2) むちゃ食い障害 むちゃ食い障害(過食性障害)とは、満腹になってもなお、短時間に大量の食物を食べ続けてしまう「むちゃ食い」を何度も繰り返す病気です。3カ月にわたり,少なくとも平均週1回の頻度でむちゃ食いがみられるときはむちゃ食い障害が疑われ、適切な治療が必要になります。また一般的に、過体重や肥満症の人ではむちゃ食い障害の頻度が高く,これは過剰なカロリー摂取によるものとされます。 過体重や肥満症の成人750人を対象にして、クロノタイプとむちゃ食い障害の関連を調査したところ、男性では夜型タイプの人のほうが朝型タイプの人よりもむちゃ食い障害に罹りやすいことが分かりました13)。 一方、女性ではそのようなクロノタイプ間の差は認められませんでした。したがって、過体重や肥満症を合併した夜型タイプの男性は、それ以外のクロノタイプに比べてむちゃ食い障害に罹っている可能性が高いかもしれません。
朝型タイプに変わるには?
これまで説明してきたように、朝型タイプの人に比べて夜型タイプの人が罹りやすい病気は多くあるため、クロノタイプを夜型タイプから朝型タイプに変えられれば、病気の治療にもつながると考えられます。 具体的には以下のように生活習慣を変えることによって、クロノタイプを変更できる可能性があります。 夜型タイプの人は、いつもより15分早く寝て、15分早く起きることからスタートして、徐々に15分ずつ前倒した生活に慣れていくことをお勧めします。さらに、早朝に日光を浴び、朝ごはんを食べることによって生体時計がリセットされ、夜型の生活から朝型の生活に切り替えやすくなります。 このように、夜型タイプから朝型タイプに変えるためのアプローチとして、いわゆる「早寝早起き朝ごはん」を実践することが非常に重要だと考えられます。 なお、就寝前に明るい照明を浴びると生体リズムが乱れ、睡眠時刻が遅れることは良く知られています。実はこのような明るい照明(400~2000ルクス)が生体リズムにおよぼす影響は、女性のほうが男性よりも大きく、一方、暗い照明(10~200ルクス)が生体リズムにおよぼす影響には男女差はないことが報告されています14)。 リビングの照明は400~500ルクスであることが多いため、寝室でリビングと同じような照明を浴びると睡眠リズムが乱れ、夜型タイプになる恐れがあります。特に女性は照明の影響を受けやすく、就寝中は(必要ならば)豆電球程度の明るさ(10ルクス)のほうが良いと思われます。 朝型の暮らしを送ることができれば、深刻な病気を未然に防げるかもしれません。そのためにもまずはちょっとした努力から、クロノタイプの改善に取り組んでみてください。 【引用文献】 1) Jones SE, et al. Genome-wide association analysis of chronotype in 697,828 individuals provides insights into circadian rhythms. Nat Commun (2019) 10:343. 2) Randler C, et al. From lark to owl: developmental changes in morningness-eveningness from new-borns to early adulthood. Sci Rep doi:10.1068/srep45874 3) Walton JC, et al. Sex differences in circadian rhythms. Cold Spring Harb Perspect Biol doi: 10.1101/cshperspect.a039107 4) Kinnaris S, et al. Chronotype, unhealthy lifestyle, and diabetes risk in middle-aged U.S. women. Ann Intern Med doi:10.7326/M23-0728. 5) Frisk MK, et al. Eveningness is associated with sedentary behavior and increased 10-year risk of cardiovascular disease: the SCAPIS pilot cohort. Sci Rep 2022; 12: 8203. 6) Vetter C, et al. Prospective study of chronotype and incident depression among middle- and older-aged women in the Nurses’ Health Study II. J Psychiatr Res 2018, 103, 156-160. 7) Knutson KL, et al. Associations between chronotype, morbidity and mortality in the UK biobank cohort. Chronobiol Int 2018, 35, 1045-1053. 8) Wilcox H, et al. The role of circadian rhythm and sleep in anorexia nervosa.JAMA Network Open 2024; 7(1):e2350358. 9) Kim KM, et al. Sex differences in the association between chronotype and risk of depression. Sci Rep (2020) 10:18512 10) Lappalainen T, et al. Chronotype and metabolic syndrome in midlife: findings from the Northern Finland Birth Cohort 1966. Am J Physiol Heart Circ Physiol 327: H38-H44, 2024. 11) Kianersi S, et al. Chronotype, unhealthy lifestyle, and diabetes risk in middle-aged U.S. women. Ann Intern Med. Doi: 10.7326/M23-0728 12) Thomas JM, et al. Exploring the role of sex in the association of late chronotype on cardiorespiratory fitness. Physiol Rep 2024; 12:e15924. 13) De Amicis R, et al. Sex differences in the relationship between chronotype and eating behaviour: a focus on binge eating and food addiction. Nutrients 2023, 15, 4580. 14) Vidafar P, et al. Greater sensitivity of the circadian system of women to bright light, but not dim-to moderate light. J Pineal Res. 2024; 76:e12936
藤村 昭夫(自治医科大学名誉教授)