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トイレの水流でエアロゾルが発生、コロナ感染リスクも、研究

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ナショナル ジオグラフィック日本版

エアロゾルが高さ1mに達し1分間滞留、トイレでの注意点を専門家に聞いた

 お酒の席やディナー、あるいは長距離ドライブなどの間、一度もトイレへ行かずに済む人は少ないだろう。しかし、飲食店や公共施設などが次々と営業を再開しつつある昨今、新たな疑問が湧き上がっている。公共トイレの利用は、新型コロナウイルスの感染リスクを高めるのだろうか? ギャラリー:世界のトイレの写真11点  そうした心配を抱かせる研究結果が今週、中国の研究者たちによって発表された。6月16日付けで学術誌「Physics of Fluids」に掲載された論文では、トイレの水を流すときにできる水の渦によって、新型コロナウイルスを含む飛沫の雲が発生し、空気中に放たれることが示唆されている。  遺伝子検査を利用したこれまでの研究で、便のサンプルから新型コロナウイルスが検出されており、少なくとも1つの調査では、便中のウイルスが感染力を持つ可能性が示された。  新型コロナウイルスに感染した人が用を足すと、ウイルスはひとまず便器の中に収まる。しかし、その後「水を流すときにウイルスが巻き上げられ、人から人へ感染が広がる可能性があります」と、今回の論文の共著者で中国、揚州大学の物理学者、王霽翔(ワン・ジシャン)氏は話す。  トイレから発生する飛沫の問題は、他の感染症との関連で過去数十年間、研究されてきた。だが、新型コロナウイルスを含め、病原体の拡散に実際どれほど関与しているかについては、いまだに多くの疑問が残されている。世界保健機関(WHO)と米疾病対策センター(CDC)はどちらも、新型コロナウイルスが「糞口感染」つまり便として排出されたウイルスを誤って摂取することによって感染する可能性は低いとしている。  しかし専門家たちは、こうした不確実な点があってもなお、公共トイレの利用にあたっては注意すべきことがあると警鐘を鳴らす。

トイレのリスクはどれくらい?

 今回の研究で王氏のチームは、便器中で水の乱流が作り出す極小の飛沫(エアロゾル)が、空気中に最大で床から1m強の高さまで放出されることを、コンピューターモデルを使って示した。便器の中に勢いよく流れ込んだ水が、反対側の壁に強く当たって渦ができる。この渦が、便器中の水のみならず空気までをも押し上げる。  王氏らのシミュレーションによれば、こうして形成されるエアロゾルは1分余り空気中に残ることがわかった。また、トイレが頻繁に使われるほど、水が流れる勢いは強くなるという。  結局、新型コロナウイルスの感染者が使ったあとのトイレに入るとどうなるのか? それは、ウイルスがヒトの便の中で感染力を保つのかという点にかかっているが、これに関してはまだ決着がついておらず、盛んに調査が進められている。  2012年に感染が広まった別のコロナウイルス感染症、中東呼吸器症候群(MERS)の場合は、ウイルスがヒトの消化管の中でも感染力を保つケースがあることが研究で示されている。ということは、仲間である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の場合も同じかもしれない。  インフルエンザウイルスやコロナウイルスは、薄い膜で包まれていることから「エンベロープ型ウイルス」と呼ばれる。食中毒の原因になるノロウイルスと異なり、エンベロープ型ウイルスは酸や界面活性剤によって簡単に破壊することができる。つまり、胃液や胆汁などの成分で壊れやすいはずなのだ。では、なぜ感染力を保てるのだろうか?  インフルエンザウイルスの研究に基づく仮説の1つは、感染者の唾液や痰、鼻汁などの粘液が、消化管を移動するウイルスを守った場合、ウイルスは感染力を保つ可能性があるというものだ。ならば次は、ウイルスがどのくらいの時間、便中で感染力を保つのかを知りたくなる。米ライス大学の分子疫学者E・スーザン・アミリアン氏が言うには、これもまた、さらなる研究が必要な分野だ。 「便を介した感染がありうるとしても、主な感染経路であるとは考えづらいです」。アミリアン氏はメールでの取材にそう答える。CDCが糞口感染のリスク評価で引用した論文よると、感染者の便からは新型コロナウイルスの壊れたゲノムの断片しか見つからなかったという。つまり、ウイルスは消化管内にいたものの、すでに破壊され、新たに感染を引き起こすことはできない状態だったということだ。  とはいえ、こうしたゲノム断片は、新型コロナウイルス感染症患者の便からかなりの割合で検出される。4月に発表された別の論文では、42人の患者のうち過半数の人の便から新型コロナウイルスの痕跡が確認されたという。また、5月18日にCDCが発表したところでは、少数の患者の便から感染力のある新型コロナウイルスが見つかっている。  さらに、過去の研究では、2002~2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際には、糞口感染が起こっていた可能性が示唆されている。SARSもまた、コロナウイルス感染症の一つだ。2003年に香港のアパートで321人ものクラスターが発生したのは、便の微粒子が空気中を舞ったためではないかと考えられた。その後の調査で、換気の悪さや、隣人同士の接触、エレベーターや階段等の共用部も、感染拡大に寄与したことがわかった。 「物理的に他人との距離を取り、丁寧に手洗いをして公共トイレを使うことは、よその世帯の人々と集まったりするよりもほぼ確実にリスクが低いはずです」と、アミリアン氏はメールに書き、こう強調する。「新型コロナウイルス感染症の主な感染経路は、呼吸器からの飛沫を介した人から人への感染です」

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