「良く言った」ドイツで暮らす彼女が現地の子どもに取った勇気ある行動
8年前、結婚を機にドイツに移住したのんさん(@non_da_kure_de)が、現地で初めて人種差別的な発言をされた出来事を漫画にし、Twitterに投稿したところ、4900を超える「いいね」が集まりました。「のんさん、良く言った」「感情的にならず、冷静に切り返すこと、勉強になります」「こういうやり取りの積み重ねが、相互理解に繋がると思うんだ」と反響が寄せられました。【BuzzFeed Japan/國仲 杏】 【漫画】ドイツの田舎町で、初めてアジア人差別的な事を言われた時
「ドイツの田舎町で、初めてアジア人差別的な事を言われた時の事」
ドイツに移り住んで8年目のある日、外を歩いていたところ、小学生くらいの男の子3人にこんな言葉をかけられます。 「ニーハオ!ニーハオ!もっと早く歩け!お前だよ!」 これが、ドイツで経験した初めての人種差別的な発言でした。初めての出来事に驚きつつも、少年たちのもとに行き、「それって私のこと?」と返します。 「ねぇ、あなた達は私に何が言いたいの?」 「何も言っていない」ととぼける3人組に、のんさんは「私に何が言いたいの?」と冷静に尋ねます。 「ご、ごめんなさい」。勇気を振り絞ったのんさんに対し、3人組は謝罪します。 “アジア人というだけで、その(差別の)材料にされるのはごめんだと思う” 小さな出来事かもしれないけれど、ドイツで生きるためにストレスや怒りは蓄積してはいけないと、改めて実感するのでした。 作品には次のようなコメントも寄せられ、のんさんの行動を讃える人がたくさんいました。 「ちゃんと言い返すのは本当に大事なことだと思います」 「敬意を表したいです。子供達も何かを考えるきっかけになればと思います」
BuzzFeedは、のんさんにお話を聞きました。
ーー差別的な言葉をかけられた出来事を漫画化し、Twitterに投稿した経緯を教えてください。 このアカウントでは、ドイツで経験したことを漫画化して公開しようと思っていたので、とても印象に残っていたこの出来事を描いて投稿しました。 ーードイツに住み始めて8年目になって初めて差別的な経験をしたようですが、その時の率直な気持ちをお聞かせいただけますでしょうか? インターネット上では、ドイツで差別的な経験をしたという在独日本人の方々の情報を拝見したことはありました。しかし、私自身は8年間何事もなかったですし、田舎に住んでいるのでまさか自分の身に起こるとは思っておらず、とても驚きました。 驚きと同時に、自分の子供とそう変わらない年頃の子供達が既に人種差別ということを意図的か、それとも知らず知らずに行ってしまってるということに、この問題の根深さを実感し、とても緊張しました。 ーーこの問題の歴史は長いですもんね。驚き、緊張を覚えつつも、男の子3人に言い返したのは、とても勇気があると思いました。当時の心境を詳しく教えてください。 勇気を持てたのは、息子の存在が大きかったと思います。 相手が成人だったら、流して通り過ぎようと思っていました。でも、「もしこれが半分アジア人の血の入った息子が言われたら…」「逆に息子が言う立場になったら…」と、この時すごく息子の姿が頭に浮かびました。 また、この時、夫がずっと寝込んでいて感染病が流行していたこともあり、心配で心の余裕がありませんでした。自分の中に悲しみや怒りを蓄積したくないと思い、気付いたら言い返していました。 ーー息子さんが、被害を受けるかもしれないし、加害を与えるかもしれないという視点で考えたのですね。それを踏まえて、のんさんの中で人種差別に対する考えに変化はありましたか? 私はお恥ずかしながらとても無知でしたので、ドイツに来る前はドイツで暮らす子供達のほとんどが金髪で青い目をしているという想像を漠然としていました。でも実際に来てみると、田舎町でも本当に色んな人種の子供達が入り交じっています。誰かを人種的に排除していったらキリがないと思います。 変かもしれませんが、ヨーロッパ系の容姿の子と、イスラム系の容姿の子と、アジア系の容姿の私との間にどんな線引が出来るんだろうと、すごく不思議な気持ちになりました。 今回はアジア人である私が差別的な言葉を浴びせられましたが、ここまで人種が混同しあってるドイツでは、もしかしたらアジア人の子が他の人種に差別的になる場合もあり得るかもしれません。 差別はとても根深い問題だと思いますが、国際化が進んでいるドイツで、「それは間違っている」と言える大人達はたくさんいます。漫画に出てくる3人も謝ってくれました。どんなに小さな事でもやってはいけないんだと分かってもらえたらいいなと思います。 今回の出来事を通して、自分の息子と夫を交えて、(人種差別について)考えるきっかけになりました。差別はとても悲しいですが、本当に少しずつ、人種の壁を乗り越えていっている最中ではないのかなと感じました。 ーー漫画を通して、読者に伝えたいメッセージとは? もし差別的なことを言われても、どうかその国を嫌いにならないでほしいです。私は日本以外にはドイツしか住んだことがありませんが、差別的な人が大多数ではありません。友好的に接してくださる方々もいらっしゃいます。 夢を抱いて来た国だと思いますし、そんなことで心をぐちゃぐちゃにしないでほしいです。でも、もし何も言い返せなくて心に悲しい気持ちを溜めてしまった場合、相手が分かってくれそうなら、「なぜそのような事を言うのか」と聞いてみてもいいかもしれません。 それは、相手よりもまず自分の心の平穏を守ることに繋がります。でも、その場合は本当に相手によりますので、身の危険を感じたら流さずをえないと思います。本当に難しい問題だと思いますが、一緒に考えていけたらとても嬉しいです。 ーー今回の投稿には、多くの反響が寄せられました。それを、どのように受け止めていらっしゃいますか? 何より、様々な国で同じようなご経験をされたというコメントに、この問題の根深さを実感しました。 そして、言い返してよかったという意見を多数いただき、自分の行動は間違っていなかったんだなと思えました。言い返した後は心臓がバクバクしていたので、さらに勇気を与えていただけたことに、ただただ感謝しております。 また、自分自身も今後どのように息子に伝えれるかと、考え直すきっかけをいただきました。